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私的整理手続

私的整理の準則・ルール(準則型私的整理)とは?

私的整理手続は裁判外での手続ですが,関係者に対する透明性や公平性を確保するため,私的整理を行うにあたっての準則・ルールが定められている場合があります。一定の準則・ルールに基づく私的整理のことを準則型私的整理と呼ぶことがあります。準則型私的整理としては,私的整理に関するガイドライン,事業再生ADR,整理回収機構による企業再生スキーム,地域経済活性化支援機構による再生支援手続,中小企業再生支援協議会による再生支援手続があります。また,裁判所の特定調停を利用した特定調停スキームも私的整理の一種といえるでしょう。この私的整理に関連して経営者保証に関するガイドラインも策定されています。

以下では,私的整理にはどのような準則・ルールがあるのかについて,東京 多摩 立川の弁護士が詳しくご説明いたします。

私的整理の準則・ルール

私的整理手続は,裁判外において行われる倒産処理の手続です。債権者との合意に基づき,倒産処理を行っていくことになります。

事業を継続しつつ経営の再建を図る再建型の私的整理の場合,債権者との個別の話し合いによって私的整理を進めていくことはあります。純然たる私的整理の方法です。

しかし,個別の話し合いによる純然たる私的整理の場合,法的整理と異なり,第三者の関与がありません。

したがって,それぞれの債権者等との間でどのような話し合いがなされているかが外部に不透明であることから,不公平な扱いがなされる可能性があるという批判があります。

そのため,私的整理においても,一定の統一的な準則・ルールに基づいて行われることが望ましいといえます。

そこで,私的整理においても,法令そのものではありませんが,統一的な一定のルールが設けられており,これに従って私的整理をしていくのが一般的となっています。「準則型私的整理」と呼ばれています。

例えば,準則・ルールが定められている準則型私的整理としては,以下のものがあります。

また,裁判手続ではありますが,特定調停手続は話し合いを基本とする手続であるため私的整理に近い性質を持っており,この特定調停手続が私的整理のために利用されることもあります。

さらに,私的整理そのものというわけではありませんが,経営者が法人債務について保証人・連帯保証人となっている場合の,経営者の保証債務等については,経営者保証ガイドラインと呼ばれる準則・ルールが設けられており,これも私的整理に利用されています。

>> 私的整理手続とは?

私的整理に関するガイドライン

私的整理に関する準則・ルールの元祖ともいえるものが,「私的整理に関するガイドライン(私的整理ガイドライン)」です。

前記のとおり,純然たる私的整理には,手続が不透明であるという批判がありました。

そこで,私的整理の利用による事業再生を進めるべく,平成13年に,政府から打ち出された「緊急経済対策」に基づいて,学識者・金融機関・産業界等による私的整理に関するガイドライン研究会が発足しました。

そして,この私的整理に関するガイドライン研究会によって策定された私的整理の準則・ルールが私的整理に関するガイドラインです。

私的整理に関するガイドラインでは,専ら金融機関を対象としており,株主・経営者は一定の責任を負担しつつも,3年以内に債務超過状態の解消と黒字化を目的として挙げています。

しかし,この3年以内の債務超過解消・黒字化という制度目標が,かえって債務者に大きな負担をかけることになってしまっています。

そのため,私的整理に関するガイドラインは,私的整理に関するルールを最初に明確化したものとして画期的な意味を持ってはいますが,実際の利用は大企業に限られ,利用件数は非常に少ないのが現状です。

>> 私的整理に関するガイドライン

事業再生ADR

準則型私的整理の1つに,「事業再生ADR」があります。

ADRとは,裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)に基づく裁判外紛争解決手続( Alternative Dispute Resolution )の略称です。

事業再生ADRとは,このADRの1つで,産業競争力強化法に基づき,「経済産業大臣の認定を受けた公正・中立な第三者が関与することにより,過大な債務を負った事業者が法的整理手続によらずに債権者の協力を得ながら事業再生を図ろうとする取組を円滑化する制度」です(経済産業省サイトから)。

現在(平成28年4月18日時点),経済産業大臣の認定を受けた第三者は,事業再生実務家協会のみです。

事業再生ADRにおいては,事業再生実務家協会と債務者が協議をして資産の評定・清算のための決算・弁済計画・事業再生計画案を策定した上で,債権者との協議において事業再生手続実施者を選任し,その手続実施者が再生計画案につき調査をします。

そして,その調査結果を各債権者が出席する債権者集会において報告し,再生計画について各債権者の同意を得ることができれば,計画に基づいて再建を図っていくことになります。

事業再生ADRにおいては,債権者が債権放棄をした場合でも,その債権者は放棄債権額を損失に組み入れることによって無税償却が可能となるため,負債減額について債権者の強力を得られやすいというメリットがあります。

また,つなぎ資金についても,債務保証や法的整理に移行した場合の優先措置が可能となるため,金融機関からのつなぎ資金融資を得られやすくなる点もメリットといえるでしょう。

ただし,事業再生ADRも私的整理ですから強制力はありません。債権者(特に金融機関)の1名でも反対があると成功できないというデメリットはあります。

加えて,事業再生ADRは,費用が高額であることや手続の複雑さから,相当の大企業でなければ利用できないため,中小企業の利用はほとんどないのが現状です。

>> 事業再生ADRについて

整理回収機構による企業再生スキーム

準則型私的整理の1つに,「整理回収機構による企業再生スキーム」があります。

株式会社整理回収機構(RCC)とは,住宅金融債権管理機構と整理回収銀行が合併して発足した株式会社です。この整理回収機構が策定している私的整理スキームが,RCC企業再生スキームと呼ばれるものです。

RCC企業再生スキームは,整理回収機構が債権者となっている債務者を対象としています。したがって,債権者の立場から行われる私的整理であるといえます。

そのため,一般的な利用ができない私的整理ルールです。また,費用の面などから,中小企業による利用はほとんどないのが現状です。

>> RCC企業再生スキーム

地域経済活性化支援機構による再生支援手続

準則型私的整理の1つに,「地域経済活性化支援機構による再生支援手続」があります。

株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)とは,地域経済の再建を図るため,有用な経営資源を有しながら,過大な債務を負っている事業者の事業再生を支援することを目的に,株式会社企業再生支援機構法に基づいて設立された会社です。

地域経済活性化支援機構では,債権者であるメインバンク等からの相談を受け,中小企業の事業再生計画支援や関係者の調整を行い,合意を得て支援の申込みに対する審査をし,要件を充たす場合には,各債権者への債権放棄要請や債権買取等を含む支援の決定を行うことになります。

地域経済活性化支援機構における事業再生支援の期間は5年までとされています。

また,地域経済活性化支援機構では,事業再生支援業務のほか,民間事業者と共同してのファンド運営,地域金融機関等に対する専門家の派遣,金融機関の事業再生子会社への出融資,非メインの金融機関等が有する貸付債権の信託の引受などの業務も行っています。

もっとも,地域経済活性化支援機構の事業再生事業も,年商数十億円単位の企業の利用が中心です。

>> 地域経済活性化支援機構の事業再生業務

中小企業再生支援協議会による再生支援事業

準則型私的整理の1つに,「中小企業再生支援協議会による再生支援事業」があります。

中小企業再生支援協議会とは,中小企業に対する再生計画策定支援等の再生支援事業を実施するために,経済産業大臣から認定を受けた商工会議所商工会連合会などの認定支援機関に設置される公的組織です(産業競争力強化法127条,128条)。

中小企業再生支援協議会の再生支援事業には,第一次対応と第二次対応があります。

第一次対応とは,協議会が中小企業から事業再生に関する相談を受け,事業再生に関するアドバイスをしたり,関連機関などを紹介する対応です。弁護士などを専門家派遣なども行っています。

第一次対応をした中小企業のうちで一定の要件を充たしている企業に対しては,第二次対応が行われます。

第二次対応では,中小企業からヒアリングをした上で,債権者である金融機関等に対して協力依頼をし,デューデリジェンスを行って事業再生計画を立案します。

そして,債権者会議を開催して債権者による事業再生計画案の決議を行い,債権者の同意を得た場合には,当該計画に基づく事業再生が遂行できるように支援を行っていくことになります。

中小企業が私的整理を行う場合には,最も利用しやすいルールであるといえるでしょう。ただし,それでも,小規模事業者には費用や手続面で利用が容易ではないのが現状です。

>> 中小企業再生支援協議会を利用した事業再生

特定調停の利用

特定調停は,裁判所において行われる民事調停手続の一種です。したがって,裁判手続ということになります。

ただし,通常の民事調停ではなく,その特例手続と位置付けられています。具体的には,民事調停の特例として,「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律(特定調停法)」に定められています。

具体的にいうと,特定調停とは,支払不能に陥るおそれのある債務者等について,債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を促進することを目的とする民事調停の特例として設けられた手続のことをいいます。

特定調停は裁判手続です。したがって,厳密にいえば法的整理に属するものであり,私的整理とはいえないかもしれません。

もっとも,特定調停は,訴訟と異なり,当事者間での話し合いを基本とする手続です。したがって,私的整理に類似する性質を持っています。

また,特定調停はこれまで個人が多く利用していましたが,だからといって,法人も利用できないわけではありません。法人の利用も可能とされています(特定調停法2条1項)。

そこで,金融円滑化法の終了に伴い,その対応策として,日本弁護士連合会(日弁連)は,平成25年3月に,特定調停を利用して中小企業(特に小規模事業者)が私的整理を行うための「金融円滑化法終了への対応策としての特定調停スキーム利用の手引き」を公表しました。

この特定調停スキームは平成26年に改訂され,さらに,経営者保証に関するガイドラインが公表されたことを受け,「経営者保証に関するガイドラインに基づく保証債務整理の手法としての特定調停スキーム利用の手引き」も公表されています。

現在,この特定調停を利用した私的整理スキームが注目されており,今後は,準則型私的整理の利用が進んでいく可能性があります。

特に,事業再生ADR,中小企業再生支援協議会の再生支援事業,中小企業再生支援協議会の再生支援事業は,小規模事業者には利用が難しい面が多いことから,中小企業・小規模事業者の私的整理のスタンダードになる可能性も含んでいるといえるでしょう。

>> 金融円滑化法終了への対応策としての「特定調停スキームの利用の手引き」策定・改訂について

経営者保証に関するガイドライン

法人・会社の私的整理そのものではありませんが,それに関連するものとして「経営者保証に関するガイドライン(経営者保証ガイドライン)」があります。

わが国では,金融機関から融資を受ける際,経営者が連帯保証人となることが多くなっています。しかし,それが早期の事業再生の妨げになっていることも少なくありません。

そこで,日本商工会議所全国銀行協会により設けられた経営者保証に関するガイドライン研究会により,中小企業の経営者保証に関するルールとして定められたものが経営者保証に関するガイドラインです。

経営者保証に関するガイドラインでは,経営者保証なしでの融資の実施,経営者保証の解除のほか,法人の倒産時における経営者保証債務の私的整理などが定められています。

>> 経営者保証に関するガイドライン

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