法人・会社が破産すると滞納している税金や社会保険料はどうなるのか?
破産手続開始決定がされると,法人・会社は解散し,破産手続の終了をもって法人格が消滅します。債務者が消滅する以上,債権も消滅せざるを得ませんから,その法人・会社に対する滞納税金や滞納社会保険料の請求権も消滅します。したがって,法人・会社が破産すると,滞納している税金や社会保険料を支払わなくてもよくなるのが原則です。
以下では,法人・会社が破産すると滞納している税金・社会保険料はどうなるのかについて,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所がご説明いたします。
法人・会社の消滅と滞納税金等債権の消滅
破産手続は,裁判所による破産手続開始決定(かつては「破産宣告」と呼ばれていた決定)によって開始されます。
破産手続開始決定がされると,その法人・会社は解散するのが通常です(会社法471条1項,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律148条,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律202条等)。
解散してもただちに法人格が消滅するわけではなく,破産手続中は清算の目的の範囲内において法人格が存続するものとみなされます(破産法35条)。
そして,破産手続が終了すると,破産者である法人・会社の法人格は,原則として消滅します。つまり,破産手続の終了により,その法人・会社が消滅してなくなるということです。
それでは,その法人・会社に対する債権はどうなるのでしょうか?
結論から言えば,法人・会社が破産した場合,その法人・会社に対する債権も最終的に消滅するのが原則です。
その法人・会社に対する債権は,破産手続において,破産法人・破産会社の財産を換価処分して得た金銭から弁済または配当を受けますが,全額の弁済または配当を受けることはできないのが通常でしょう。
しかし,不足部分を請求しようにも,破産手続の終了によって,債務者である法人・会社は消滅しています。債務者がいなくなれば,債権は存在意義を失います。つまり,債権も消滅するということです。
このことは,滞納している税金や社会保険料などの請求権でも同様です。
滞納税金や滞納社会保険料等を請求しようとしても,債務者である法人・会社が破産によって消滅してしまうのですから,やはり滞納税金等の債権も消滅せざるを得ないのです。
法人・会社が破産した場合,滞納していた税金や社会保険料を支払う必要はなくなるのが原則なのです(なお,例外については後述)。
個人(自然人)破産との混同による誤解
「法人・会社を自己破産させても,滞納している税金や社会保険料は支払わなければならない」と勘違いされている方が,少なからずいます。
自称倒産専門家などが,インターネットなどで堂々と上記のような間違った記載をしている場合も散見されます。
しかし,前記のとおり,破産によって債務者である法人・会社それ自体がなくなってしまうのですから,(後述の例外的場合を除き)支払いのしようがありません(債権者からみれば,請求する相手がいないということになります。)。
法人・会社が自己破産したら,滞納している税金や社会保険料も,原則として消滅すると考えるほかないのです。
それにもかかわらず,「法人・会社が自己破産しても税金や社会保険料は支払わなければならない」という勘違いが生まれてしまうのは,おそらく,法人・会社の破産と個人(自然人)の破産とを混同してしまっているところに理由があるのではないかと思われます。
個人破産の場合,自己破産したからといって,破産者である個人が消滅するはずがありません。したがって,滞納税金や社会保険料等の債権も消滅しません。
しかも,税金や社会保険料の債権は非免責債権でとされていますから,免責もされません。
そのため,個人破産の場合には,法人・会社の破産の場合と異なり,破産をしたとしても,税金や社会保険料の支払義務がなくならないのです。
法人・会社の破産でも税金や社会保険料はなくならないという誤解は,上記の個人破産の場合と混同してしまっているところからきているのではないかと思われます。
例外的に税金等の支払が残る場合
前記のとおり,滞納している税金や社会保険料などの債権も,法人・会社の破産手続が終了すれば消滅します。したがって,その支払いが残るということは,原則としてありません。
もっとも,例外的に,法人・会社の破産手続が終了しても,その滞納税金や滞納社会保険料を別の人や会社が支払わなければならない場合があります。
法人破産・会社破産の場面においては,以下のような場合に,税金等の支払い義務が別の会社や別の人に課せられる可能性があります。
- 合名会社・合資会社の無限責任社員など
- 破産した法人・会社から事業そのものを譲り受けた一定の関係にある法人・会社や個人が,同じ場所で同じ事業を営んでいる場合
- 破産した法人・会社から重要な財産を無償または廉価で譲り受け,または債務の免除を受けた法人・会社や個人
- 納税保証をしている場合
合名会社や合資会社の無限責任社員等
合名会社・合同会社の無限責任社員は,破産した法人・会社に代わって,税金や社会保険料を支払う必要があります。
合名会社・合資会社のほか,弁護士法人や税理士法人などの社員も無限責任を負うことになります。
事業を譲り受けた特殊関係者
破産法人・破産会社から事業そのもの譲り受けた特殊な関係にある個人や法人・会社が,破産法人・破産会社と同じ場所で同じ事業を営んでいる場合には,譲り受けた財産などの限度で,破産した法人・会社に代わって,税金や社会保険料を支払わなければならないことがあります。
特殊な関係とは,破産した法人・会社から特別な利益を受けていた役員や従業員などや,破産した法人・会社の被支配会社,一定の株主などがこれに該当する可能性があります。
例えば,破産する前に,事業設備や従業員ごと親族などに譲り渡し,同じ場所で同じ事業を行わせるような場合,事業譲渡と認定されて,納税義務等も引き継がれてしまう危険性があるので,注意が必要です。
重要な財産を無償または廉価で譲り受けた者等
法定納期限前の1年以内に,破産した法人・会社から重要な財産を無償または廉価で譲り受け,あるいは,無償または廉価で債務を免除してもらった譲受人等は,その譲渡等をしたことが原因で税金等の支払いがなされなかったと認められる場合,第二次納税義務者として,破産法人・破産会社に代わって,その利益の残っている限度で,税金や社会保険料の支払いをしなければならないことがあります。
納税保証がされている場合
税金の支払いについて保証(納税保証)をしている場合には,その保証人が,法人・会社に代わって,税金を支払う必要があります。
納税保証人になっている例は少ないと思われますが,脱税や悪質な申告漏れ等によって追徴されている税金を滞納している場合には,代表者等に対して厳しく税金保証を迫られるというケースもあるようです。
したがって,税金や社会保険料の滞納があるような場合には,上記のようなケースに該当しないかどうかも検討しておく必要があるでしょう。
滞納税金等の債権の破産手続における取扱い
破産手続においては,破産管財人が破産法人・破産会社の財産を換価処分し,それによって得た金銭を,債権者に弁済または配当することになります。
税金や社会保険料の請求権も,他の借入金などの債権と同様に,破産手続における弁済や配当によって満足を得ることになります。
ただし,税金等の請求権は,他の債権よりも優先的な地位に置かれています。そのため,破産手続における弁済・配当において,他の債権よりも優先した支払いがなされます。
すなわち,破産手続開始前の原因に基づいて発生した,納期限が未到来又は納期限から1年経過していない税金等の債権は財団債権とされ,破産債権よりも優先的に,かつ,破産手続外で(配当に参加せずに)弁済されます(開始後でも財産管理費用に該当するようなものは財団債権になります。)。
また,それ以外の税金等の債権は,劣後的破産債権に当たるものを除いて優先的破産債権とされるので,配当手続でなければ支払いを受けられないものの,一般破産債権よりも優先的に配当を受けることができるとされています。
これらの弁済・配当によっても支払いきれなかった税金や社会保険料の請求権は,前記のとおり,破産手続終了による法人・会社の消滅とともに消滅することになります。
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