法人・会社の破産手続における債権者の地位・立場とは?
破産手続の第一の目的は,債権者に対する公平な分配にあります。もっとも,すべての債権者が完全に平等・公平に扱われるわけではなく,その有する債権の内容に応じて破産債権者または財団債権者に振り分けられ,それにより,破産手続において異なる取り扱いをされることになります。また,債権について抵当権等の担保権を設定している担保権者は別除権者として扱われ,破産財団に混入している破産者に属しない財産の真の所有者等は取戻権者として扱われます。
以下では,法人・会社の破産手続における債権者の地位・立場について,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所がご説明いたします。
債権者とは
「債権」とは,特定人に対してある一定の行為・給付を提供するよう請求する法的権利のことをいいます。債権を有する者のことを「債権者」といいます。
他方,「債務」とは,特定人に対してある一定の行為・給付を提供しなければならない法的義務のことをいいます。債務を負担する者のことを「債務者」といいます。
破産手続においては,破産手続開始決定を受けた債務者は「破産者」と呼ばれることになります(破産法2条3項。法人・会社の破産の場合には「破産法人」「破産会社」と呼ばれることもあります。)。
破産者の財産は,裁判所によって選任される破産管財人によって管理・換価処分され,それにより得られた金銭が,債権者に分配されます。
>> 債権・債務とは?
債権者の種類
債権者に該当するものは,金融機関の貸付債権や税金・社会保険料などの公租公課だけではありません。
前記のとおり,特定人に対してある一定の行為・給付を提供するよう請求する法的権利が債権ですから,これに該当する権利を有する者はすべて債権者です。
したがって,水道光熱費,通信費,取引先や仕入先に対する支払い,従業員の給料,家賃や地代など,およそ金銭的支払いが必要なものはすべて債権者に含まれます。
また,金銭債権だけでなく,役務の提供を請求する債権など非金銭債権も債権者に該当します。
破産手続における債権者保護の理念
破産法1条
この法律は,支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により,債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し,もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに,債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。
破産手続は,債務者(破産者)を負債から解放して経済的更生を図るという意味を持っていることは間違いありません。
もっとも,破産手続に最も重大な利害関係を有しているのは債権者です。債権者の理解を得られなければ,そもそも破産という制度自体が成立しません。
そのため,破産手続の第一の目的は,清算された破産者の財産を,適正に換価処分して,それによって得られた金銭を債権者に対して公平・平等に分配することにより,総債権者の利益を確保することにあると解されています(破産法1条)。
破産手続があることによって,破産法の定めるルールに従って,破産者の財産が適正に換価処分され,それによって得られた金銭が,債権者に弁済または配当がなされます。
それにより,早い者勝ちになったり,力関係の強い者が優先され過ぎたりせず,債権者の平等を図ることができ,結果として,総債権者の利益を確保できることになります。
また,破産手続によって総債権者の利益を図るためには,その債権者に対して,破産手続において権利行使する機会を与え,手続保障を図る必要もあります。
そこで,破産手続においては,債権者の手続保障のための制度も設けられています。
破産手続における債権者の地位・立場
前記のとおり,破産手続の目的を達成するためには,債権者の平等を図ることが重要です。
もっとも,すべての債権者が,完全に公平・平等に取扱われるのかというと,そういうわけではありません。ここでいう公平・平等とは,形式的な公平・平等という意味ではなく,あくまで実質的な公平・平等です。
債権者が有する債権にはさまざまな種類があります。そして,その債権のうちには,性質や内容からみて,他の債権よりも優先されるべき理由があるものもあります。
それらを無視して形式的に公平・平等に扱ってしまうと,かえって不公平や不平等を生じてしまうおそれがあります。
そこで,破産法では,債権者の立場は,その有する債権の性質や内容に応じて異なる取扱いがなされるものと定められています。
具体的には,破産者に対する債権は,「財団債権」と「破産債権」という2つの種類に分けられ,それぞれ破産法上,異なる扱いがされています。
また,これら財団債権や破産債権を有する債権者の中には,その債権について担保権を設定している場合もあります。担保権も破産者に対する権利ですが,債権とは別に「別除権」として扱われます。
さらに,破産者の財産でないものが破産財団に混入している場合,真の所有者等がその混入している財産を取り戻す権利も債権の一種ですが,これについては,通常の債権と異なる「取戻権」として扱われます。
>> 破産法とは?
財団債権者
「財団債権」とは,破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権のことをいいます(破産法2条7項)。
この財団債権を有する債権者のことを「財団債権者」といいます(同条8号)。
破産手続においては,後述のとおり,各債権額に応じて配当がなされるのが通常です。しかし,財団債権については,配当によって支払いを受けるのではなく,破産手続外で随時弁済を受けることができます。
どういうことかといえば,配当によって支払いをされる債権者(破産債権者)よりも先に,債権の支払いを受けることができるということです。破産法上,財団債権は破産債権よりも優先されているのです。
財団債権としては,破産管財人の報酬や破産手続遂行のための実費の請求権,一定範囲の租税等の請求権,一定範囲の従業員の給与等の債権などがあります(ただし,租税等の請求権や給与等の債権には,後述の破産債権に含まれるものもあります。)。
財団債権者は,破産手続外で弁済を受けることが可能です。とはいえ,破産者の財産を管理しているのは破産管財人ですから,弁済は破産管財人から受けることになります。
破産債権者
「破産債権」とは,破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって,財団債権に該当しないもののことをいいます(破産法2条5号)。
この破産債権を有する債権者のことを「破産債権者」といいます(同条6号)。
前記の財団債権を除いて,破産者に対する債権のほとんどは,この破産債権に該当することになります。
例えば,代表的なものとして,貸金債権,代金債権,賃料債権,損害賠償債権なども,この破産債権ということになります。
破産債権については,財団債権のように破産手続外で随時弁済されるようなことはありません。破産手続における配当手続によって支払いを受けることができるだけです。
ただし,破産債権の中でも優先順位があります。
通常の破産債権よりも優先される破産債権を「優先的破産債権」といい,通常の破産債権よりも劣後する破産債権のことを「劣後的破産債権」といいます。
つまり,破産債権には,優先される順に,優先的破産債権・一般破産債権・劣後的破産債権(さらにこれに劣後するものとして,約定劣後破産債権)があるということです。
破産債権者は破産手続に参加する権利を有しています。そして,破産手続に参加するためには,原則として破産債権調査手続の期間内に,破産管財人に対して破産債権の届出をする必要があります。
別除権を有する債権者(別除権者)
別除権とは,破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき,特別の先取特権,質権又は抵当権を有する者が,これらの権利の目的である財産について,破産手続によらないで行使することができる権利のことをいいます(破産法2条9項,65条1項)。
この別除権を有する担保権者のことを「別除権者」といいます(破産法2条10項)。
債権者が,破産債権や財団債権に該当する債権の支払いを担保するために特別の先取特権・質権・抵当権などを設定している場合があります。
この抵当権等の担保権も破産者(債務者)に対する権利ではありますが,債権とは別に「別除権」として扱われます。
別除権者は,別除権を行使して,破産手続によらずに,その有する担保権を実行し,担保目的物から優先的に弁済を受けることができます。
被担保債権が破産債権であったとしても,別除権の範囲内であれば,破産手続によらずに,優先的に弁済を受けることができます。
なお,別除権があるからといって,破産債権者(または財団債権者)でなくなるわけではありません。別除権を有する場合には,破産債権者または財団債権者であると同時に別除権者にもなるというだけです。
したがって,別除権の行使によっても債権を完全に満足しきれなかった場合には,債権の残額について,被担保債権が財団債権であれば財団債権者として破産手続外での弁済を受け,被担保債権が破産債権であれば破産債権者として破産手続における配当を受けることになります。
>> 別除権とは?
取戻権を有する債権者(取戻権者)
取戻権とは,真の権利者等が,破産者に属しない財産を破産財団から取り戻す権利のことをいいます(破産法62条1項)。
この取戻権を有する真の権利者等のことを「取戻権者」と呼ぶことがあります。
破産管財人が管理する破産財団の中に,破産者に属しない財産が混入してしまっている場合,その混入している財産の真の所有者等は,破産管財人に対して,その財産を返還するよう求める権利を有します。
この返還を求める権利も債権の一種ですが,そもそも破産者に属しない財産,つまり,破産財団に属しない財産を対象としています。
そこで,取戻権は,破産手続の開始によっても影響を受けずに行使できるものとされています。とはいえ,破産者の財産を管理しているのは破産管財人ですから,取戻権を行使する相手方は破産管財人です。
>> 取戻権とは?
破産手続における債権者の役割
債権者は,破産手続において,自ら債務者の財産等の調査・管理・換価処分を行うわけではありませんから,その点からすると,受け身的な立場にあると言えるでしょう。
もっとも,何らの役割もないわけではありません。債権者の手続保障にも関連しますが,破産手続における債権者の重要な役割は,破産手続を監視することにあります。
特に,破産手続における配当でしか債権の満足を図れない破産債権者には,破産手続を監視するために,債権者集会に出頭して意見を述べる権利や債権認否・配当等に対して異議を述べる権利が与えられています。
また,破産管財人による調査において,債権者からの情報提供により,新たな財産等が発覚することもあります。債権者には,破産管財人の管財業務を補填できる役割もあると言えるでしょう。
破産手続における債権者に対する制限
前記のとおり,破産手続においては,債権者の平等が強く求められます。
そこで,早い者勝ちをなくすために,破産手続が開始されると,破産債権者は,個別に権利行使をすることができなくなります。
要するに,破産者に対して直接請求をしたり,裁判を起こしたり,強制執行等をすることができなくなるということです。
破産手続開始の時点ですでに係属している訴訟については,破産者に代わって破産管財人が訴訟を引き継ぐことになります。
ただし,別除権者や取戻権者は,破産手続外で権利行使をすることができます。
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