破産申立ての管轄裁判所を間違えた場合はどうなるのか?
破産手続開始の申立てを受けた裁判所は,著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認めるときは,職権で,破産事件を破産法7条各号に定める裁判所に移送することができるものとされています(破産法7条)。管轄の間違いがあった場合,裁判所は同条に基づいて破産事件を適切な裁判所に移送することになります。ただし,実務では,いきなり移送するのではなく,まず,申立人に対して,破産手続開始の申立てを取り下げるよう促すのが通常でしょう。
以下では,破産申立ての管轄裁判所を間違えた場合はどうなるのかについて,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所がご説明いたします。
管轄違いによる裁判の移送
裁判所に裁判を申し立てる場合,どこの裁判所に申立てをすればよいのかは,法律によって定められています。どこでもよいというわけではないのです。
もっとも,裁判の申立てを受けた裁判所は,申し立てられた事件の内容や性質,あるいは,その事件の規模に応じて,その事件を適切に処理できる別の裁判所に事件を移送することができます。
すなわち,裁判の移送とは,裁判の申立てを受け事件が係属することになった裁判所が,その事件を,職権または当事者の申立てよって,他の裁判所に係属させることをいいます。
民事訴訟法上,裁判の移送には,以下の種類があります。
- 管轄違いによる移送(民事訴訟法16条)
- 遅滞を避ける等のための移送(民事訴訟法17条)
- 簡易裁判所から地方裁判所への移送(民事訴訟法18条)
- 当事者の申立ておよび相手方の同意による移送(民事訴訟法19条)
申し立てるべき管轄裁判所を間違った場合,基本的には,民事訴訟法16条で定める管轄違いによる移送がなされることになります。
破産申立ての専属管轄
破産法 第6条
この法律に規定する裁判所の管轄は,専属とする。
破産事件も裁判ですから,申し立てるべき管轄裁判所を間違った場合には,法律上,管轄のある裁判所に移送されなければなりません。
ただし,破産事件は専属管轄とされています。専属管轄とは,当事者の意思等で変更することができない裁判管轄のことをいいます。
破産事件は専属管轄ですから,破産法で定められた法定の管轄以外の裁判所に事件を移送することはできません。
そのため,破産法では独自の移送が設けられており,民事訴訟法で認められている管轄違いによる移送(民事訴訟法16条),遅滞を避ける等のための移送(民事訴訟法17条),簡易裁判所から地方裁判所への移送(民事訴訟法18条),当事者の申立ておよび相手方の同意による移送(民事訴訟法19条)は認められません。
破産申立ての管轄を間違った場合
破産法 第7条
裁判所は,著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認めるときは,職権で,破産事件(破産事件の債務者又は破産者による免責許可の申立てがある場合にあっては,破産事件及び当該免責許可の申立てに係る事件)を次に掲げる地方裁判所のいずれかに移送することができる。
① 債務者の主たる営業所又は事務所以外の営業所又は事務所の所在地を管轄する地方裁判所
② 債務者の住所又は居所の所在地を管轄する地方裁判所
③ 第5条第2項に規定する地方裁判所
④ 次のイからハまでのいずれかに掲げる地方裁判所
イ 第5条第3項から第7項までに規定する地方裁判所
ロ 破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権となるべき債権を有する債権者(破産手続開始の決定後にあっては,破産債権者。ハにおいて同じ。)の数が500人以上であるときは,第5条第8項に規定する地方裁判所
ハ ロに規定する債権者の数が1000人以上であるときは,第5条第9項に規定する地方裁判所
⑤ 第5条第3項から第9項までの規定によりこれらの規定に規定する地方裁判所に破産事件が係属しているときは,同条第1項又は第2項に規定する地方裁判所
破産法 第5条
第1項 破産事件は,債務者が,営業者であるときはその主たる営業所の所在地,営業者で外国に主たる営業所を有するものであるときは日本におけるその主たる営業所の所在地,営業者でないとき又は営業者であっても営業所を有しないときはその普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
第2項 前項の規定による管轄裁判所がないときは,破産事件は,債務者の財産の所在地(債権については、裁判上の請求をすることができる地)を管轄する地方裁判所が管轄する。
第3項 前二項の規定にかかわらず,法人が株式会社の総株主の議決権(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式についての議決権を除き,会社法(平成17年法律第86号)第897条第3項の規定により議決権を有するものとみなされる株式についての議決権を含む。次項,第83条第2項第2号及び第3項並びに第161条第2項第2号イ及びロにおいて同じ。)の過半数を有する場合には,当該法人(以下この条及び第161条第2項第2号ロにおいて「親法人」という。)について破産事件,再生事件又は更生事件(以下この条において「破産事件等」という。)が係属しているときにおける当該株式会社(以下この条及び第161条第2項第2号ロにおいて「子株式会社」という。)についての破産手続開始の申立ては,親法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ,子株式会社について破産事件等が係属しているときにおける親法人についての破産手続開始の申立ては,子株式会社の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができる。
第4項 子株式会社又は親法人及び子株式会社が他の株式会社の総株主の議決権の過半数を有する場合には,当該他の株式会社を当該親法人の子株式会社とみなして,前項の規定を適用する。
第5項 第1項及び第2項の規定にかかわらず,株式会社が最終事業年度について会社法第444条の規定により当該株式会社及び他の法人に係る連結計算書類(同条第1項に規定する連結計算書類をいう。)を作成し,かつ,当該株式会社の定時株主総会においてその内容が報告された場合には,当該株式会社について破産事件等が係属しているときにおける当該他の法人についての破産手続開始の申立ては,当該株式会社の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ,当該他の法人について破産事件等が係属しているときにおける当該株式会社についての破産手続開始の申立ては,当該他の法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができる。
第6項 第1項及び第2項の規定にかかわらず,法人について破産事件等が係属している場合における当該法人の代表者についての破産手続開始の申立ては,当該法人の破産事件等が係属している地方裁判所にもすることができ,法人の代表者について破産事件又は再生事件が係属している場合における当該法人についての破産手続開始の申立ては,当該法人の代表者の破産事件又は再生事件が係属している地方裁判所にもすることができる。
第7項 第1項及び第2項の規定にかかわらず,次の各号に掲げる者のうちいずれか一人について破産事件が係属しているときは,それぞれ当該各号に掲げる他の者についての破産手続開始の申立ては,当該破産事件が係属している地方裁判所にもすることができる。
① 相互に連帯債務者の関係にある個人
② 相互に主たる債務者と保証人の関係にある個人
③ 夫婦
第8項 第1項及び第2項の規定にかかわらず,破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権となるべき債権を有する債権者の数が500人以上であるときは,これらの規定による管轄裁判所の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも,破産手続開始の申立てをすることができる。
第9項 第1項及び第2項の規定にかかわらず,前項に規定する債権者の数が1000人以上であるときは,東京地方裁判所又は大阪地方裁判所にも,破産手続開始の申立てをすることができる。
第10項 前各項の規定により二以上の地方裁判所が管轄権を有するときは,破産事件は,先に破産手続開始の申立てがあった地方裁判所が管轄する。
前記のとおり,破産事件については,破産法において独自の移送の制度が設けられています。
具体的に言うと,裁判所は,著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認めるときは,職権で,破産事件を破産法7条各号に定める裁判所に移送することができるものとされています(破産法7条)。
破産手続開始の申立てをすべき管轄裁判所を間違った場合,この破産法7条に基づいて,破産事件が適切な裁判所に移送されることになります。
ただし,実務では,いきなり移送をするのではなく,管轄違いが発覚した場合には,まず,裁判所から申立人に対して申立ての取下げを促すのが通常でしょう。
そして,申立てを取り下げた申立人は,新たに,適正な管轄のある裁判所に対して破産手続開始の申立てをすることになります。
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