法人・会社の自己破産申立て前にはどのような準備が必要か?
裁判所によって破産手続を開始してもらうためには,まず,申立人において裁判所に対して破産手続開始の申立書を提出しなければなりません。この申立書には各種の書類・資料の添付が必要です。そのため,その書類作成や資料添付のために,各種の調査が必要となってきます。また,申立て前に従業員の解雇,事業所の明渡し,資産の保全などの措置をとっておかなければならない場合もあります。
以下では,法人・会社の自己破産申立て前にはどのような準備が必要になるのかについて,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所がご説明いたします。
- 法人・会社の破産手続開始の申立て
- 破産手続開始の申立ての時期の検討
- 債権者の調査
- 資産の調査
- 契約関係の調査
- 介入通知(受任通知)の送付の要否
- 事業所の閉鎖・明渡し
- 従業員の解雇
- 在庫・機材等の保全・処分
- 破産手続開始の申立書の作成
- 破産申立て前に注意すべきこと
法人・会社の破産手続開始の申立て
破産手続は,裁判所が破産手続開始の決定を発することによって開始されます。
もっとも,裁判所は自ら支払不能または債務超過の法人・会社を見つけ出して開始決定をするわけではありません。
破産手続開始決定は,申立人によって破産手続開始の申立てがなされ,その申立てが要件を充たす場合に発せられます。
したがって,破産手続を開始してもらうためには,まずは,裁判所に対して破産手続開始の申立てをしなければいけないのです。
実務上,この破産手続開始の申立ては, 破産手続開始の申立書を裁判所に提出する方法によって行われます。
とはいっても,ただ破産手続開始の申立書を作成して提出すればよいだけではありません。
破産手続開始の申立書には,債権者一覧表のほか,事業状況・資産状況・契約状況などに関する報告書や,各種の書類・資料を添付する必要があります。
そのため,債権者,財産・資産,契約関係などをあらかじめ調査しておかなければなりません。
また,事案によっては,債権者や従業員に対する対応,契約関係の処理,在庫品や法人資産の確保・保全・散逸防止のための措置などを申立て前の段階で行っておかなければならないこともあります。
したがって,破産手続開始の申立てのためには,よほど緊急の申立てが必要な場合を除いて,申立てまでの間にできる限りの準備をしておかなければならないのです。
破産手続開始の申立ての時期の検討
破産手続開始の申立てにおいて最も重要で,しかも最も判断が難しいのは,その申立てをいつ行うのかという点かもしれません。
破産手続開始の申立てを行えば,それ以降,法人・会社は清算に向かって手続が進んでいくことになります。いったん始まってしまうと,引き返すことはできないと考えておいた方がよいでしょう。
破産手続が開始されると,債権者への支払いをしなくてもよくなります(より正確に言うと「しなくてもよい」のではなく「してはいけない」ことになります。)が,同時に,法人・会社の財産は破産管財人の管理下に置かれることになりますので,処分することはできなくなります。
親密な取引先や親族だけには迷惑をかけたくないので,先に支払や契約関係などの処理を済ませておいてしまいたいという場合でも,そのような一部の債権者や関係者にだけ便宜を図るということは許されていません。
また,破産した法人・会社は法人格を失います。つまり,法人・会社が無くなるということです。
破産をすれば,支払いをすることもできなくなる上に法人・会社が無くなるのですから,債権者をはじめとして,従業員・取引先・顧客など多くの関係者に多大な迷惑をかけることになるおそれがあるのです。
厳しいことを言うようですが,誰にも迷惑をかけずに破産することなどできません。破産手続開始の申立てをすれば,誰かに迷惑をかけることは避けられないのです。
それだけに,破産手続が始まる前に,破産することを債権者などに知られてしまうと,大きな混乱が起き,収集がつかなくなったり,取付騒ぎなどが生じて財産が散逸してしまうおそれがあります。
特に,税金等を滞納している場合には,破産する予定であることを事前に税務署などに知られると,即時に滞納処分が行われ,法人・会社の財産を差し押さえられてしまうことがあり得ます。
そのため,どの時点で破産手続開始の申立てをすべきか,いわゆるXデーをいつにするのかを判断するためには,後述する各種の調査や処理をしっかりと行っておかなければならないのです。
債権者の調査
破産手続において最も重大な利害を有するのは債権者ですから,どのような債権者がいるのかは重要な問題です。
そこで,破産手続開始の申立てにおいては,申立書に債権者一覧表を添付しなければならないとされています。
この債権者一覧表を作成するためには,破産手続開始の申立て前に,どのような債権者がいるのかを調査しておく必要があります。
債権者は,現時点の負債だけではなく,破産手続開始を申立て予定の時点において未払いになるであろう債権者も含めて調査します。
債権者は,役員・従業員の方からの聴取だけでなく,決算書・各種帳簿・契約書・請求書・領収書・預貯金通帳・郵便物などの記載などを確認して調査します。
具体的には,債権者としては以下のようなものが挙げられます(もちろん,これだけに限られるわけではありません。)。
- 金融機関
- 買掛先・取引先
- リース会社
- 継続的給付(水道光熱費・ガス代・通信費など)
- 労働債権(従業員の給料・退職金・解雇予告手当など)
- 公租公課(法人税・消費税・源泉徴収税・法人住民税・社会保険料など)
資産の調査
破産手続においては,法人・会社の資産・財産は破産管財人によって管理・調査・換価処分され,それによって得られた金銭は債権者への弁済・配当の原資になります。
破産手続開始の申立てにおいても,申立書に財産の目録や財産に関する書類や資料を添付しなければなりません。
そのため,破産手続開始の申立て前に,できる限り法人・会社の資産・財産にどのようなものがあるのかを調査しておく必要があります。
資産・財産については,役員・従業員の方からの聴取だけでなく,決算書・各種帳簿・契約書・請求書・領収書・預貯金通帳・郵便物などの記載などを確認して調査します。
実際に事業所や倉庫などの現場にいって,直接どのようなものがあるのかを確認する場合もあります。
法人・会社が所持しているものであっても,必ずしも,その法人・会社の所有物であるとは限りません。
したがって,保有する財産が所有の資産・財産なのか,それとも,リース物件・レンタル物品・預かり物品なのか,担保がついているのかなども併せて確認しなければなりません。
よくある資産・財産としては,以下のものがあります。
- 現金
- 預貯金
- 所有不動産
- 所有車両・運搬具
- 債権(売掛金・貸付金など)
- 敷金・保証金・出資金など
- 任意保険
- 積立金
- 有価証券(株式・手形・小切手など)
- ゴルフ会員権・リゾート会員権
- 商品・在庫品
- 工作機械・重機など
- 什器・備品・工具など
- 知的財産権
契約関係の調査
破産手続においては,破産管財人が破産者の契約関係の解除・処理を進めて清算をしていきます。したがって,どのような契約関係があるのかも確認しておかなければなりません。
契約関係についても,役員・従業員の方からの聴取のほか,決算書・各種帳簿・契約書・請求書・領収書・預貯金通帳・郵便物などの記載などを確認して調査します。
特に早急な確認が必要な契約関係は,従業員との労働・雇用契約と事業所などの賃貸借契約です。
また,すでに契約している仕掛中の仕事があるのかどうか,または,破産手続開始の申立てまでに契約締結する予定があるのかどうかなども確認が必要です。
介入通知(受任通知)の送付の要否
個人破産の場合には,最初に,各債権者に対して弁護士から受任通知(介入通知・債務整理開始通知)を送付して,各債権者からの取り立てを停止させます。
これに対して,法人破産の場合には,常に受任通知を送付するわけではありません。ケースバイケースですが,受任通知を送付しないまま破産手続開始申立てを行うこともあります。
特に,税金や社会保険料などの滞納がある場合,受任通知を送付すると,受任通知を受け取った債権者からの情報で,税務署や年金事務所等に破産を企図していることを知られ,滞納処分によってを優先的な債権回収を図られてしまうおそれがありますから,受任通知を送付しない方がよいことが少なくありません。
また,法人破産・会社破産の場合には,債権者に受任通知を送付することにより,買掛先・取引先・従業員などの債権者の取り立てがそれまで以上に激しくなり,かえって混乱を招くことが少なくありません。
買掛先の債権者が事業所に押し寄せてきて勝手に在庫品などを持ち出してしまうなどの取り付け騒ぎが発生することもあります。
そのため,事案によっては,受任通知を送付せずに秘密裡・隠密裏に準備を進めていかなければならないことがあるのです。
>> 法人破産の場合でも介入通知(受任通知)を送付するのか?
事業所の閉鎖・明渡し
法人・会社の破産においては,賃借している事業所・倉庫などをいつ閉鎖し,賃貸人に明渡しをすることができるのかどうかが大きな問題となることがあります。
法人・会社が破産する以上,借りている事業所などは賃貸人に明け渡さなければなりません。
しかし,事業所・倉庫の規模や中にある設備や物品によっては,明渡しをするためにかなりの費用が必要となることがあります。
また,明渡しをするまで,第三者が侵入して内部の物品を持ち出してしまうおそれがないかどうかも確認しなければなりません。
そこで,事業所・倉庫の形態・中にどのような物があるのか・各入口に施錠はあるのか・警備システムなどが取り付けられているのか・それを支払うだけの現金を捻出できるのかどうかはよく考えておく必要があります。
従業員の解雇
法人・会社が破産すると,従業員を解雇しなければなりません。破産手続開始の申立て,または破産手続開始決定前に従業員を解雇するのが一般的でしょう。
従業員を解雇する場合,解雇予告が解雇前30日以内であった場合には,当該従業員に解雇予告手当を支払う必要があります。
とはいえ,解雇予告手当を支払うだけの資力がないからといって,解雇から30日よりも前に解雇予告をすると,破産することを察知され,それが外部に漏れて混乱を生じるおそれもあります。
したがって,解雇予告をせずに即日解雇とするのか,いつ解雇予告をするのか,未払いの賃金・退職金・解雇予告手当はどのくらいの金額になるのかなどは事前に検討しておかなければなりません。
また,従業員を解雇すると,雇用保険など社会保険の処理や源泉徴収の処理なども必要となってきますので,社会保険に加入しているのか,源泉徴収をしているのかなども確認が必要でしょう。
その他,中小企業退職金共済や従業員積立金等に加入しているのか,従業員に社宅を貸しているのかなども処理が必要となってきますから,確認しておいた方がよいでしょう。
なお,破産手続開始の申立て前または破産手続開始決定前に従業員を解雇するのが一般的と言いましたが,事案によっては,従業員を解雇せずに申立てをすることもあり得ます。
特に,仕掛業務が残っており,それを完成させるためには従業員の協力が必須であるという場合には,従業員を解雇せずに申立てをすることもあります。
ただし,従業員を解雇せずに仕掛業務を完成させた方がよいのか,それとも,仕掛業務は諦めて従業員を解雇した方がよいのか,という判断は,正直,かなり難しい問題となるため,安易に判断すべきではないでしょう。
在庫・機材等の保全・処分
法人・会社が保有している在庫品や機材・機械・什器・備品等は,その法人・会社の財産です。
したがって,これらは破産手続において換価処分され,債権者に対する弁済や配当の原資となるものですから,破産管財人に引き渡すまで,適切に管理しておかなければなりません。
事業所や工場に在庫品等を置いている場合には,それらが紛失したり,盗まれないように,厳重に保全・管理しておく必要があります。
もっとも,場合によっては,破産手続開始の申立てをする前に,在庫品や機材等を処分しておくことがあります。
例えば,在庫品等が腐りやすいものなど価値が現存しやすいもので,破産手続開始の申立てを待っていると価値が現存してしまうというような場合には,破産手続開始の申立て前に換価処分をすることがあります。
また,破産手続開始を申し立てるするための弁護士費用や裁判費用が不足している場合に,それを補うために,破産手続開始の申立て前に在庫品等を換価処分をすることがあります。
ただし,上記のとおり,在庫品や機材等は,そのまま破産管財人に引き渡すのが基本です。
安易な換価処分は不当な財産処分とみなされ,刑事罰等の責任を問われるおそれがありますので,安易に換価処分をしないように注意しておく必要があります。
>> 破産手続開始の申立て前に資産・財産を処分してもよいか?
破産手続開始の申立書の作成
前記のとおり,法人・会社の破産手続開始の申立ては,裁判所に対して破産手続開始の申立書を提出する方法によって行います。
この申立書には,債権者一覧表や会社の状況に関する報告書のほか,各種の書類や資料の添付が必要です。
前記の各種調査や措置を行って,この破産手続開始申立書を作成し,添付書類・資料を作成・収集しておかなければなりません。
事案によってはすぐに申立てをしなければならないということもあります。その場合には,調査や申立書添付のために,かなり忙しくなることもあるでしょう。
>> 法人・会社の破産手続開始の申立書には何を記載すればよいのか?
破産申立て前に注意すべきこと
これまで述べてきたとおり,法人破産・会社破産の申立て前には,いくつか注意しておかなければならないことがあります。申立て前の行動としてよく問題になるものとしては,以下のものがあります。
- 法人・会社の財産・資産を,役員やその親族・従業員・下請人・取引先などに無償または低価格で譲り渡すこと
- 法人・会社の財産・資産を,低価格で売却処分してしまうこと
- 法人・会社の現金などを,役員個人が私的に流用してしまうこと
- 役員やその親族・下請人・取引先などにだけ優先的に支払ってしまうこと
- 新たに借入れをしてしまうこと
- 法人・会社の帳簿類を処分してしまうこと
- 破産申立てをすることを周囲に漏らしてしまうこと
法人・会社の財産・資産は,破産手続において債権者に公平に分配するための原資です。安易に譲り渡したり,処分してはいけません。
裁判費用や従業員の給与支払いのためにやむを得ず売却等をする場合でも,査定をして適正な売却価格を確認し,専門家である弁護士に相談して売却するかどうかを検討すべきです。
また,一部の債権者にだけ優先的に支払いをすることは禁じられます。親族や懇意の取引先であったとしても,約定どおり以上の支払いをすることはできません。
したがって,親族や懇意の取引先にだけ,全額をまとめて支払いきってしまうことは避けなければなりません。
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代表弁護士:志賀 貴(日弁連登録番号35945・旧60期・第一東京弁護士会本部および多摩支部所属)
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