法人・会社が破産すると雇用契約・労働契約はどのように処理されるのか?
雇用契約とは,当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し,相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって成立する契約のことをいいます(民法623条)。労働契約とは,労働者が使用者に使用されて労働し,使用者がこれに対して賃金を支払うことについて,労働者及び使用者が合意することによって成立する契約のことをいいます(労働契約法6条)。使用者である法人・会社が破産する場合,破産手続開始の前に従業員・労働者を全員解雇しておくのが通常ですが,破産手続における清算業務に従業員・労働者の協力が必要であると見込まれる場合には,破産手続開始前に解雇をしないこともあります。雇用契約・労働契約の使用者について破産手続が開始したとしても,雇用契約・労働契約は当然には終了しません。したがって,破産管財人による契約関係の清算が必要となってきます。具体的に言うと,破産管財人は,解約申入れをして従業員・労働者を解雇します。従業員・労働者の破産法人・破産会社に対する給料債権等は,他の債権に優先され,一部は財団債権となり,それ以外の部分も優先的破産債権として取り扱われます。
以下では,法人・会社が破産すると雇用契約・労働契約はどのように処理されるのかについて,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所がご説明いたします。
法人・会社の雇用契約・労働契約の処理
雇用契約とは,当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し,相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって成立する契約のことをいいます(民法623条)。
労働契約とは,労働者が使用者に使用されて労働し,使用者がこれに対して賃金を支払うことについて,労働者及び使用者が合意することによって成立する契約のことをいいます(労働契約法6条)。
※雇用契約と労働契約は,厳密に言えば異なるもの完全に同じ契約類型ではないと解されています。以下では,基本的に,労働基準法の適用のある労働契約・雇用契約について説明します。
法人・会社が従業員・労働者を雇用して事業を行う場合,この従業員と・労働者との間で雇用契約・労働契約を締結することになります。
この雇用契約・労働契約は,使用者である法人・会社について破産手続が開始したとしても,当然には終了しません。
そのため,破産手続開始の時点で雇用契約・労働契約が終了していない場合,破産管財人は,その雇用契約・労働契約関係を解消するための措置をとる必要が生じてきます。
雇用契約・労働契約の解消とは,契約を解除するということ,つまり,従業員・労働者を解雇するということです。
また,労働者・従業員に対する給料などの未払いがある場合には,その労働債権の処理も問題となってきます。
労働者・従業員の解雇
前記のとおり,使用者である法人・会社について破産手続が開始されたとしても,労働契約・雇用契約は当然には終了しません。したがって,破産管財人は,労働契約・雇用契約を解消する措置をとることになります。
労働契約・雇用契約を解消するということは,契約を解除するということです。もっと端的に言うならば,労働者・従業員を解雇するということです。
雇用契約・労働契約は継続的な双務契約ですが,破産法53条1項の適用は無いと解されています(破産法55条1項・2項の適用もありません。同条3項。)。したがって,同項による契約の解除はできません。
もっとも,破産管財人は,労働者に対して解約の申入れをすることができます(民法631条前段)。これにより,雇用契約・労働契約を解約して労働者・従業員を解雇することになります。
この解約申入れがなされた場合,労働者・従業員は,解約によって生じた損害の賠償を請求することはできません(民法631条後段)。
ただし,破産管財人が解約申入れをした場合でも,解雇予告手当は発生します。
なお,解約の申入れは,破産管財人だけでなく,従業員・労働者の側からすることもできます。
>> 法人・会社が破産すると従業員・労働者は解雇されるのか?
破産手続開始前の解雇
上記のとおり,使用者である法人・会社について破産手続が開始された場合に,まだ労働契約・雇用契約が存続しているときには,破産管財人が解約申入れを行って労働者・従業員を解雇することになります。
もっとも,労働者・従業員は,破産手続の開始前に全員解雇しておくのが通常でしょう。
破産手続開始前まで解雇をしておかないケースは,例えば,破産手続開始後も従業員・労働者の協力を得なければ清算業務を遂行できないと見込まれるような場合に限られてきます。
破産管財人によって雇用が継続される場合
前記のとおり,従業員・労働者は,破産手続開始前に全員解雇するのが通常です。仮に,破産手続開始前に解雇していなかった場合でも,破産手続開始後,破産管財人が解雇することになります。
ただし,清算業務を行うために従業員・労働者の協力が必要となる場合には,破産手続開始後であっても,その清算業務を完了するまでの間,雇用契約・労働契約を継続することはあります。
例えば,経理関係の処理,売掛金等の回収,仕掛中の仕事の完成などに従業員・労働者の協力が必要であるような場合です。
この場合,破産手続開始後に発生する賃金は財団債権となり,他の債権に優先して,破産財団から支払われます(破産法148条1項2号,4号,8号)。
なお,従業員・労働者の協力が必要となる場合でも,いったんは解雇した上で,再度,期間を定めて,新たに破産管財人と当該従業員・労働者との間で契約を締結し直すということもあります。
労働者・従業員が有する債権の取扱い
労働者・従業員が破産者である法人・会社に対して債権を有している場合もあるでしょう。
労働者・従業員が有する債権とは,具体的に言えば,給料などの賃金,退職金,解雇予告手当などの請求権です。
これらの債権は,労働者の生活の糧となる重要な債権です。そこで,労働者保護のため,破産手続において,他の債権よりも優先的な取り扱いがなされています。
なお,破産手続においては,配当が無い場合や支払いが大幅に遅延することがあるため,労働者保護のため,未払いの賃金については,労働者健康福祉機構が使用者に代わって支払いをしてくれる未払賃金立替払制度が設けられています。
>> 法人・会社が破産すると従業員の未払い給料等はどうなるのか?
給料債権
給料債権のうち,破産手続開始前3か月間の給料に当たるものは,財団債権となります(破産法149条1項)。
ここで言う「給料」とは,賃金・給料・手当・賞与その他名称のいかんを問わず,使用者が労働者に対して労働の対価として支払うすべてのものが含まれると解されています。
他方,破産手続開始前3か月よりも以前の給料債権は,一般の先取特権が認められる「雇用関係に基づいて生じた債権(労働債権)」ですので(民法306条,308条),単なる一般の破産債権ではなく,優先的破産債権として扱われます(破産法98条)。
なお,前記のとおり,破産手続開始後に発生した給料債権は,財団債権となります。
退職金債権
退職金債権については,破産手続開始の前後に関係なく,当該退職金債権のうち退職前3か月間の給料の総額に相当する額が財団債権となります(破産法149条2項)。
ただし,退職前3か月間の給料の総額が破産手続開始前3か月間の給料の総額よりも少額の場合には,破産手続開始前3か月間の給料の総額に相当する額が財団債権となります(破産法149条2項)。
他方,上記財団債権に当たらない退職金債権であっても,一般の先取特権が認められる労働債権に該当するものについては,単なる一般の破産債権ではなく,優先的破産債権として扱われます(破産法98条)。
労働債権に該当する退職金債権とは,賃金性を有する退職金の債権であるということです。支給額・支給基準が就業規則等により明確に定められている場合には,退職金も賃金性を有すると解されています。
解雇予告手当債権
使用者が労働者を解雇しようとする場合は事前に解雇の予告をしなければならず,事前に解雇予告をしなかった使用者は,解雇予告日から解雇日までの日数に応じて算定した平均賃金の額を支払わなければならないとされています(労働基準法20条)。
この使用者が支払わなければならない金銭のことを「解雇予告手当」といいます。
解雇予告手当債権も労働債権ですから,単なる一般の破産債権ではなく,優先的破産債権として扱われると解されています。
なお,東京地方裁判所などでは,破産管財人からの申立てにより,解雇予告手当債権を財団債権として扱うことも可能とされています。
未払賃金立替払制度の利用
前記のとおり,労働者の未払い賃金については,労働者健康福祉機構が使用者に代わって支払いをしてくれる未払賃金立替払制度が設けられています。
ただし,全額を立替払いしてくれるわけではなく,限度額は決まっています。また,破産手続開始の申立日の6か月前の日から2年以内に退職した労働者の賃金のみが対象となります。
労働者に対して未払い賃金がある場合には,まずは,この制度を利用できないかを検討することになります。破産者側としても,この制度が利用できるよう労働者に協力してあげるべきでしょう。
破産手続開始後にこの未払賃金立替払制度を利用する場合には,破産管財人に未払賃金があることの証明をしてもらう必要があります。
労働者健康福祉機構が労働者に対して立替払いをした場合,その立替払いを分について,弁済による代位によって,労働者に代わり,財団債権者または優先的破産債権者となります。
>> 未払賃金立替払制度とは?
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