法人破産・会社破産した場合に従業員の退職金はどうなるのか?
従業員・労働者の退職金を未払いのまま法人破産・会社破産の手続が開始された場合,退職金請求権のうち退職前3か月間の給料総額と破産手続開始前3か月間の給料総額のいずれか高額な方に相当する金額は財団債権として扱われ,破産債権の配当より優先して弁済がなされます。他方,それ以外の部分は優先的破産債権として扱われ,配当によって支払われるものの,他の一般の破産債権よりも優先して配当されます。弁済・配当するだけの破産財団が無い場合には,弁済・配当がなされないか,案分弁済・配当となります。このような場合には,未払賃金立替払制度の利用を考えなければいけません。なお,使用者である法人・会社が破産したとしても,中小企業退職金共済(中退共)や民間保険会社の退職金保険等に加入している場合には,共済金等として退職金が支払われます。
以下では,法人破産・会社破産した場合に従業員の退職金はどうなるのかについて,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所がご説明いたします。
- 従業員・労働者に退職金を支払うべき場合
- 中退共や保険会社からの退職金の取扱い
- 財団債権となる退職金債権
- 優先的破産債権となる退職金債権
- 未払賃金立替払制度の利用
- 破産申立て前に退職金を支払うことの是非
従業員・労働者に退職金を支払うべき場合
法人・会社が破産すると,従業員・労働者は解雇されることになります(実際には,破産申立ての前に解雇するのが一般的です。)。そのため,従業員・労働者に対する退職金の支払いが問題となってきます。
従業員・労働者が退職した場合,使用者である法人・会社は,必ず退職金を支払わなければならないわけではありません。
従業員・労働者に退職金を支払わなければならないのは,その退職金が賃金に該当し,使用者である法人・会社に支払義務が生じる場合です。
具体的に言うと,退職金制度が設けられており,退職金規程等において,具体的な退職金の支払い金額や支払い条件等が明確に定められている場合には,使用者である法人・会社に支払義務が生じます。
法人・会社に退職金の支払義務が生じる場合,この従業員の退職金請求権も債権ですから,他の債権と同様,破産手続における弁済または配当の対象になります。
ただし,従業員の退職金は,従業員の生活の糧になるものです。そのため,退職金請求権は,借金などの他の債権よりも優先的な取扱いがなされていれます。
また,未払いの退職金については,未払賃金立替払制度という公的制度を利用して支払いを図ることも少なくありません。
中退共や保険会社からの退職金の取扱い
退職金の支払いに備えて,法人・会社において中小企業退職金共済(中退共)や民間保険会社の退職金保険等に加入している場合があります。
使用者である法人・会社が破産し,従業員・労働者が解雇により退職となった場合,中退共などから共済金等として退職金の全部または一部が支払われることになります。
これは,法人・会社の破産にかかわりなく支払われます。
中退共等に加入している場合には,従業員・労働者が退職金を受け取れるように,手続に必要な書類を準備しておく必要があります。
財団債権となる退職金債権
従業員・労働者の退職金請求権のうち,退職前3か月間の給料総額と破産手続開始前3か月間の給料総額のいずれか高額な方に相当する金額は,破産手続において最も優先される財団債権として扱われます。
一般的な債権は破産債権として扱われ,破産管財人による管財業務の終了後に配当によって支払われます。
これに対し,財団債権は,配当の前に,破産管財人によって支払われます。破産債権よりも優先して支払いがされるのです。
ただし,複数の財団債権があり,その全部を支払うだけの破産財団が形成されていない場合は,それぞれの債権額に応じて案分で支払われます。
なお,支払うだけの破産財団がまったく形成できない場合には,財団債権と言えども支払われることはありません。
未払い退職金を一部しか支払えない場合またはまったく支払えない場合には,未払賃金立替払制度を利用することになります。
優先的破産債権となる退職金債権
前記のとおり,退職金請求権のうち,退職前3か月間の給料総額と破産手続開始前3か月間の給料総額のいずれか高額な方に相当する金額は財団債権となります。
上記財団債権以外の部分は破産債権となり,配当によって支払われることになります。
もっとも,破産債権ではありますが,その破産債権のなかで最も優先される優先的破産債権として扱われます。そのため,一般の破産債権よりも優先して配当されることになります。
優先順位としては,まず財団債権に弁済し,まだ破産財団に余裕があれば優先的破産債権に配当し,さらに余裕があれば一般の破産債権に配当されることになります。
ただし,複数の優先的破産債権があり,その全部を支払うだけの破産財団が形成されていない場合は,それぞれの債権額に応じて案分で配当されます。
なお,配当するだけの破産財団がまったく形成できない場合には,優先的破産債権と言えども支払われることはありません。
未払い退職金をを一部しか支払えない場合またはまったく支払えない場合には,未払賃金立替払制度を利用することになります。
>> 優先的破産債権とは?
未払賃金立替払制度の利用
前記のとおり,従業員・労働者の退職金請求権は優先的な取扱いがされるとはいえ,破産財団が形成できず,弁済や配当がなされない可能性もあります。
そのような場合に従業員・労働者の生活を補償するため,未払賃金立替払制度という公的な制度が設けられています。
未払賃金立替払制度とは,使用者である法人・会社が倒産したことにより労働者が賃金未払いのまま退職を余儀なくされた場合に,「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づいて,独立行政法人労働者健康安全機構が,その倒産した法人に代わって,労働者に対して未払い賃金の一部を支払う公的制度のことです。
退職金も未払賃金立替払制度の対象です。全額とまではいきませんが,一定額は立替払をしてもらえる可能性はあります。
法人破産・会社破産申立て前の時点ですでに未払い退職金の支払いが十分になされない見込みがある場合には,破産申立て前に,この未払賃金立替払制度を利用するための準備をしておく必要があるでしょう。
>> 未払賃金立替払制度とは?
破産申立て前に退職金を支払うことの是非
法人破産・会社破産の申立てをする前に,従業員・労働者の給料を支払うべきかというのは重要な問題です。
破産手続においては債権者間の平等が強く求められます。そのため,一部の債権者にだけ支払いをすることは偏頗弁済と呼ばれる禁止行為とされています。
偏頗弁済をした場合,破産手続開始後,破産管財人が,偏頗弁済を受け取った債権者に対して否認権を行使し,その受け取った分を返還するよう請求することがあります。
前記のとおり,従業員の退職金請求権も債権ですから,破産申立て前に支払をすると,上記の破産管財人による否認権行使の可能性があります。
とはいえ,前記のとおり,退職前3か月間の給料総額と破産手続開始前3か月間の給料総額のいずれか高額な方に相当する金額退職金請求権は,破産手続において最も優先される財団債権です。
したがって,(通常はあまりないでしょうが)法人・会社に破産申立て費用や給料・解雇予告手当の支払い等を考慮しても十分な現預金等がある場合には,財団債権に該当する金額については,あらかじめ支払いをしておくこともあり得るでしょう。
ただし,従業員の給与以外にも財団債権となるべき債権(税金などの公租公課)がある場合には,それらも含めて支払うべきかどうかの検討が必要となります。
なお,余剰が十分にある場合でも,上記財団債権となるべき退職金請求権以外の部分については,支払いを止めておいた方が無難です。
破産申立て前の支払いが困難と判断した場合には,前記の未払賃金立替払制度の利用を見据えた準備をする必要があります。
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