法人破産・会社破産した場合に従業員の未払い賃金はどうなるのか?
法人・会社が破産する場合に,他の債権者への支払いをせずに,未払いの従業員・労働者に対する給料・退職金等の賃金だけを支払ってしまうと,偏頗弁済として否認権行使の対象となる可能性があります。ただし,従業員・労働者の未払い賃金の請求権は,破産法上,財団債権または優先的破産債権として扱われるため,他の債権に優先して弁済または配当がなされる場合があります。
以下では,法人破産・会社破産した場合に従業員の未払い賃金はどうなるのかについて,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所がご説明いたします。
従業員・労働者の賃金請求権
従業員・労働者は,使用者である法人・会社に対して,労働の対価としての金銭(賃金)の支払いを請求する権利を有しています。
賃金とは,たとえば,給料・給与などです。退職金も,就業規則等で支払いをする旨が明確に規定されていれば賃金に該当します。また,解雇予告手当も,賃金と同様に扱われています。
法人・会社の資金状況によっては,従業員に対して給料などを支払えず,未払いのまま,破産の申立てをしなければならない場合もあるでしょう。
この従業員・労働者の賃金請求権も債権です。したがって,借金などと同様,破産手続において弁済または配当されることになります。
もっとも,従業員・労働者にとって,賃金は生活の糧となる重要な金銭です。そのため,この賃金の請求権は,破産法において,他の債権よりも優先的な地位が与えられています。
具体的には,従業員・労働者の賃金請求権は,財団債権または優先的破産債権として扱われ,他の債権よりも優先的に弁済または配当がなされることがあるということです。
以下では,給料,退職金,解雇予告手当に分けて説明します。
>> 従業員・労働者への対応
未払いの給料・給与など基本的な賃金の請求債権
給料・給与といった基本的な賃金は,従業員・労働者にとって最も基本的で重要な金銭です。そのため,この給料・給与の請求債権は,破産法上も優先的な地位にあります。
この基本的な賃金には,時間外労働に対する割増賃金(残業代),法定休日労働に対する割増賃金(休日手当),深夜労働に対する割増賃金(深夜手当)なども含まれます。
>> 法人破産・会社破産する場合に従業員の給料はどうなるのか?
未払い給料等賃金請求権の取扱い
どのように優先されるかというと,破産手続開始前3か月以内に支給されるべき給料・給与等の賃金請求権は,財団債権とされ(破産法149条1項),破産手続開始前3か月より前の分については,優先的破産債権となります(同法98条1項)。
したがって,破産手続開始前3か月以内の賃金については,破産財団に支払うだけの財産があれば,配当まで待たずに,破産管財人から支払いがなされます。
破産手続開始前3か月よりも以前の分の給料・給与等の賃金請求権は,財団債権とはなりません。破産債権として配当によって支払いがなされることになります。
ただし,優先的破産債権として扱われるので,一般の破産債権よりも,優先的に配当を受けることができます。
未払い賃金立替制度の利用
上記のとおり,賃金請求権は,財団債権または優先的破産債権となりますが,破産財団が十分に形成されていなければ,いずれにしても支払いはなされません。
しかし,それでは,従業員が当面の生活をおくることすらできなくなってしまうおそれもあります。
そこで,使用者である法人・会社が倒産した場合,従業員・労働者は,未払い賃金立替制度という公的制度を利用して,一定額の賃金を公的機関から支払ってもらうことができる場合があります。
この未払い賃金立替制度を利用すれば,未払い賃金額の全額が支払われるわけではないものの,最大で未払い賃金額の8割まで支払われます(ただし,年齢ごとに上限金額があります。)。
実際の破産手続でも,頻繁に利用されています。
未払いの退職金請求債権
前記のとおり,退職金・退職手当も賃金に該当する場合があります。従業員・労働者の立場からすれば,この退職金がもらえないとなると,将来の人生設計が大きく変わってしまうという場合もあるでしょう。
そのため,この退職金・退職手当の請求債権も,基本的な賃金の請求権と同様,破産法において優先的な地位が与えられています。
>> 法人破産・会社破産する場合に従業員の退職金はどうなるのか?
退職手当請求権の取扱い
具体的には,その退職金請求権のうち,退職前3か月分の給料の総額または破産手続開始前3か月分の給料の総額のいずれか金額の大きい方に相当する金額の部分が,財団債権となり,それ以外の部分は優先的破産債権となります。
したがって,上記の退職金のうち財団債権に該当する部分は,破産財団に支払うだけの財産があれば,配当まで待たずに,破産管財人から支払いがなされます。
他方,それ以外の部分は破産債権ですので,配当まで待たなければなりませんが,優先的破産債権として扱われるので,一般の破産債権よりも,優先的に配当を受けることができます。
未払い賃金立替制度の利用
退職金・退職手当請求権についても,前記の給料などの賃金請求権の場合と同じく,使用者である法人・会社が倒産した場合,従業員・労働者は,未払い賃金立替制度という公的制度を利用して,一定額の退職金を公的機関から支払ってもらうことができる場合があります。
この未払い賃金立替制度を利用すれば,退職金の全額が支払われるわけではないものの,最大で未払い退職金の8割(ただし,年齢ごとに上限金額があります。)まで支払われます。
実際の破産手続でも,頻繁に利用されています。
未払いの解雇予告手当請求権
従業員・労働者を解雇する場合には,解雇の日から30日前までに解雇予告をしなければなりません。
これをしなかった場合,使用者は従業員に対して,解雇予告日から解雇日までの日数に応じて解雇予告手当を支払う必要があります。
この解雇予告手当の支払いがないまま,使用者である法人・会社が破産した場合,その解雇予告手当請求権は,優先的破産債権として扱われます。
労働基準法では,解雇予告手当は賃金と同じく扱われていますが,破産法では,給料そのものではないため,財団債権とはならないと解されています。
なお,この解雇予告手当については,未払い賃金立替制度が利用できませんので,その点は注意が必要でしょう。
>> 法人破産・会社破産する場合に解雇予告手当はどうなるか?
従業員・労働者の賃金請求権に関連する記事
この記事がお役に立ちましたらシェアお願いいたします。
法人・会社の破産のことならLSC綜合法律事務所まで!
法人・会社の自己破産でお困りの方がいらっしゃいましたら,債務相談2500件以上,自己破産申立て300件以上,破産管財人経験もある東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所にご相談ください。
ご相談は無料相談です。
※なお,当事務所にご来訪いただいてのご相談となります。お電話・メール等による相談は承っておりません。予めご了承ください。
東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所
名称:LSC綜合法律事務所
住所:〒190-0022 東京都立川市錦町2丁目3-3 オリンピック錦町ビル2階
ご予約のお電話:042-512-8890
ホームページ:https://www.lsclaw.jp/
代表弁護士:志賀 貴(日弁連登録番号35945・旧60期・第一東京弁護士会本部および多摩支部所属)
LSC綜合法律事務所までのアクセス・地図
- JR立川駅(南口)および多摩都市モノレール立川南駅から徒歩5~8分ほど
- お近くにコインパーキングがあります。