破産手続開始前の役員財産に対する保全処分とは?
裁判所は,緊急の必要があると認めるときは,債務者(保全管理人が選任されている場合は保全管理人)の申立てまたは職権で,破産手続開始の申立てから破産手続開始決定があるまでの間,取締役・理事等の役員の責任に基づく損害賠償請求権につき,当該役員の財産に対する保全処分を命じることができるとされています(破産法177条2項)。
以下では,破産手続開始前の役員財産に対する保全処分について,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所がご説明いたします。
取締役・理事等の損害賠償責任
法人・会社が破産したからといって,それだけで取締役や理事等の役員が責任を問われることはないのが通常です。
もっとも,取締役・理事等の役員は,常に何らの責任も負わないというわけではありません。
取締役・理事等の役員の任務懈怠行為によって法人・会社に損害が生じた場合,当該役員は,その法人・会社に対して損害賠償を支払うべき責任を負うことがあります(会社法423条等)。
取締役・理事等の役員が法人・会社に対して損害賠償責任を負っている場合,その法人・会社について破産手続が開始されると,破産管財人が,当該役員に対して損害賠償を請求することになります。
>> 会社破産について代表者・取締役等が損害賠償責任を負うのか?
破産手続開始前の役員財産に対する保全処分とは
破産法 第177条
第1項 裁判所は,法人である債務者について破産手続開始の決定があった場合において,必要があると認めるときは,破産管財人の申立てにより又は職権で,当該法人の理事,取締役,執行役,監事,監査役,清算人又はこれらに準ずる者(以下この節において「役員」という。)の責任に基づく損害賠償請求権につき,当該役員の財産に対する保全処分をすることができる。
第2項 裁判所は,破産手続開始の申立てがあった時から当該申立てについての決定があるまでの間においても,緊急の必要があると認めるときは,債務者(保全管理人が選任されている場合にあっては,保全管理人)の申立てにより又は職権で,前項の規定による保全処分をすることができる。
(第3項~第7項省略)
前記のとおり,取締役・理事等の役員が法人・会社に対して損害賠償責任を負う場合,破産手続開始後,破産管財人が,当該役員に対し損害賠償を請求することになります。
この取締役・理事等の役員に対する損害賠償請求権も,破産財団に属する財産です。
したがって,実際に損害賠償請求権が支払われると,支払われた金銭は破産財団に組み入れられ,破産手続遂行のための費用に充てられ,また,債権者に対する弁済または配当の原資となります。
そこで,この取締役・理事等の役員に対する損害賠償請求権の回収の実効性を図るため,裁判所は,必要があると認めるときは,破産管財人の申立てまたは職権で,取締役・理事等の役員の責任に基づく損害賠償請求権につき,当該役員の財産に対する保全処分を命じることができるとされています(破産法177条1項)。
とはいえ,この保全処分を行えるのは,破産手続が開始した後です。
破産手続開始申立て後,破産手続が開始されるまでの間に,損害賠償責任を負う取締役・理事等の役員が財産を隠匿するなどしてしまうことにより,破産手続が開始された後に損害賠償請求をしても,現実に回収することが困難になることもあります。
そこで,裁判所は,緊急の必要があると認めるときは,債務者・保全管理人の申立てまたは職権で,破産手続開始の申立てから破産手続開始決定があるまでの間,取締役・理事等の役員の責任に基づく損害賠償請求権につき,当該役員の財産に対する保全処分を命じることができるとされています(破産法177条2項)。
これらを「役員の財産に対する保全処分」と呼んでいます。
役員財産に対する保全処分の効果
破産手続開始前における役員の財産に対する保全処分の対象は,法人・会社に対して損害賠償責任を負っている理事・取締役・執行役・監事・監査役・清算人・これらに準ずる者の有する財産です。
被保全権利が上記役員に対する損害賠償請求権という金銭債権であることから,保全処分としては,役員の財産について仮差押えを行うことになるのが通常です。
ただし,必要に応じて,仮処分がなされることもあります。
役員財産に対する保全処分の発令要件
破産手続開始前における役員の財産に対する保全処分は,債務者である法人・会社の申立て(保全管理人が選任されている場合は保全管理人の申立て)または裁判所の職権で発令されます(破産法177条2項)。
ただし,どのような場合でも役員の財産に対する保全処分が発令されるわけではありません。
まず,前提として,被保全権利である「役員の責任に基づく損害賠償請求権」が存在していることが必要です。
この役員の責任に基づく損害賠償請求権には,任務懈怠による損害賠償請求権だけでなく,現物出資等の不足額支払義務などの特別な責任も含まれると解されています。
さらに,破産手続開始後の保全処分の場合であれば「必要があると認めるとき」であれば足りますが,破産手続開始前の保全処分の場合には,単に必要があるというだけでは足りず「緊急の必要があると認めるとき」でなければならないとされています。
具体的には「緊急の必要があると認めるとき」といえるのは,損害賠償請求権を請求する必要性・蓋然性が高く,かつ,相手方である役員が財産を隠匿・処分するなどのおそれが切迫している場合でなければならないと解されています。
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