破産手続開始前における否認権のための保全処分とは?
破産管財人による否認権の実効性を確保して,破産財団の充実を図るため,裁判所は,否認権を保全するため必要があると認めるときは,利害関係人の申立てまたは職権で,破産手続開始の申立てから破産手続開始決定があるまでの間,仮差押え,仮処分その他の必要な保全処分を命じることができるとされています(破産法171条1項)。これを「否認権のための保全処分」といいます。
以下では,破産手続開始前における否認権のための保全処分について,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所がご説明いたします。
破産管財人の否認権
破産手続が開始されると,裁判所により破産管財人が選任され,その破産管財人が,債務者である法人・会社の財産を破産財団として管理・換価処分し,それによって得た金銭を各債権者に弁済または配当することになります。
つまり,破産手続において,債務者である法人・会社の財産は,各債権者に対する弁済または配当の原資となるわけです。
そのため,破産管財人は,できる限り多くの法人・会社の財産を回収し,より大きな破産財団を形成することが求められます。
この破産財団の形成のために,破産管財人には「否認権」と呼ばれる権能が与えられています。
すなわち,破産管財人の否認権とは,破産手続開始前になされた破産者の行為またはこれと同視できる第三者の行為の効力を否定して破産財団の回復を図る形成権たる破産管財人の権能のことをいいます。
簡単に言うと,破産手続開始前に法人・会社から流出してしまった財産を取り戻し,破産財団に組み入れることができるということです。
例えば,破産手続開始前に,法人・会社が財産を第三者に譲渡してしまっていた場合ですと,破産手続開始後,破産管財人が,その第三者に対して否認権を行使し,譲渡を受けた財産を取り戻すことになります。
>> 破産管財人の否認権とは?
破産手続開始前における否認権のための保全処分
破産法 第171条 第1項
裁判所は,破産手続開始の申立てがあった時から当該申立てについての決定があるまでの間において,否認権を保全するため必要があると認めるときは,利害関係人(保全管理人が選任されている場合にあっては,保全管理人)の申立てにより又は職権で,仮差押え,仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。
前記のとおり,破産管財人は否認権を行使して,債務者である法人・会社から逸出した財産を取り戻すことができます。
しかし,破産手続開始前に,逸出した財産が,その財産を受け取った第三者(受益者)からさらに別の第三者(転得者)に移転してしまうと,破産手続が開始されたとしても,もはや否認権を行使して財産を取り戻すことが出来なくなる可能性があります。
そこで,否認権の実効性を確保して,破産財団の充実を図るため,裁判所は,否認権を保全するため必要があると認めるときは,利害関係人の申立てまたは職権で,破産手続開始の申立てから破産手続開始決定があるまでの間,仮差押え,仮処分その他の必要な保全処分を命じることができるとされています(破産法171条1項)。
これを「否認権のための保全処分」と呼んでいます。
否認権のための保全処分の効果
否認権のための保全処分としてどのような保全処分が発令されるのかは,否認権の内容によって異なります。
否認権行使に基づく原状回復請求権の内容が金銭債権の場合には,仮差押えがなされます。
例えば,破産手続開始前に債務者が偏頗弁済をしていた場合などには,偏頗行為否認の行使を保全するために,受益者の財産を仮差押えすることになります。
また,否認権行使に基づく原状回復請求権の内容が物の引渡しや明渡を求める請求権の場合には,処分禁止の仮処分がなされます。
例えば,破産手続開始前に債務者が特定の物を譲渡していた場合などには,詐害行為否認や無償行為否認などの行使を保全するために,受益者のもとにある当該財産について処分禁止の仮処分をすることになります。
否認権のための保全処分の発令要件
破産手続開始前の否認権のための保全処分は,利害関係人の申立てまたは裁判所の職権で発令されます(破産法171条1項)。
ただし,どのような場合でも否認権のための保全処分が発令されるわけではありません。否認権のための保全処分が発令されるのは,「否認権を保全するため必要があると認めるとき」です。
具体的に「否認権を保全するため必要があると認めるとき」といえるのは,以下の要件を充たしている必要があります。
- 被保全権利が存在すること
- 保全の必要性があること
- 利害関係人の申立てによる場合には,書面(申立書)によって申立てをすること(破産規則1条1項,2条1項)
ここでいう被保全権利とは,否認権に基づく原状回復請求権です。
この否認権に基づく原状回復請求権が存在するというためには,破産手続開始決定がなされる見込みがあり,否認権の発生原因事実が存在していることが必要です。
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