否認権が行使されるとどのような効果が生じるのか?
破産管財人が否認権を行使した場合,「破産財団を原状に復させる」という効果が生じます。具体的には,詐害行為によって受益者が取得した財産を破産財団に取り戻すことができ,また,偏頗行為によって債権者が取得した利益の返還を求める請求権を取得することができるという効果が生じます。
以下では,否認権が行使されるとどのような効果を生じるのかについて,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所がご説明いたします。
否認権行使の効果
破産法上,破産管財人には「否認権」という権能が与えられています。
否認権とは,破産手続開始前になされた破産者の行為またはこれと同視できる第三者の行為の効力を否定して,破産財団の回復を図る形成権たる破産管財人の権能のことをいいます。
否認権は,上記のとおり破産財団を回復させるための権能ですから,破産管財人によって否認権が行使されると,破産財団を回復させるという効果を生じることになります。
>> 破産管財人の否認権とは?
破産財団の原状回復
破産法 第167条
第1項 否認権の行使は,破産財団を原状に復させる。
第2項 第百六十条第三項に規定する行為が否認された場合において,相手方は,当該行為の当時,支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは,その現に受けている利益を償還すれば足りる。
上記条文のとおり,破産管財人によって否認権が行使されると,「破産財団を原状に復させる」という効果が生じます。
原状に復させるとは,本来,破産財団に組み入れられるべき財産であるにもかかわらず,破産財団から流出してしまっている財産を,再び破産財団に組み入れるということです。
>> 破産財団とは?
詐害行為否認の場合
詐害行為否認の場合は,詐害行為の相手方(受益者)に対して否認権を行使することによって,その詐害行為の効力を否定することができます。
詐害行為の効力を否定するというのは,受益者は,破産管財人に対して,その詐害行為によって正当に財産を取得したということを対抗できなくなるという意味です。
その結果,破産管財人は,詐害行為がなかったものとして扱うことができますから,受益者に対して,詐害行為によって得た財産を破産財団に返還するよう求めることができるようになるのです。
ただし,詐害行為否認のうちでも無償行為否認の場合には,受益者が,その無償行為の当時,支払停止や破産手続開始申立てがあったことを知らなかったときには,現存している利益分だけ償還すればよいものとされています(破産法167条2項)。
>> 詐害行為否認とは?
偏頗行為否認の場合
偏頗行為否認の場合も,偏頗行為の相手方である債権者に対して否認権を行使することによって,その偏頗行為の効力を否定することができます。
偏頗行為の効力を否定するというのは,偏頗行為の相手方である債権者は,破産管財人に対して,その偏頗行為によって正当に支払を受けたまたは利益を取得したということを対抗できなくなるという意味です。
その結果,破産管財人は,偏頗行為がなかったものとして扱うことができますから,偏頗行為の相手方である債権者に対して,偏頗行為によって支払を受けた分の金銭の支払いや,偏頗行為によって得た利益・財産を破産財団に返還するよう求めることができるようになるのです。
もっとも,偏頗弁済の場合のように,偏頗行為として金銭支払いがなされた場合は,その金銭(紙幣やコイン)自体の返還を求めるというのは現実的ではありません。
したがって,偏頗弁済の場合の偏頗行為否認の効果は,厳密にいえば,財産の返還というよりも,偏頗弁済によって得た金銭と同額の金銭の支払いを求める債権的請求権を取得することといえるでしょう。
>> 偏頗行為否認とは?
否認権行使の相手方の権利
破産管財人によって否認権が行使されると,その否認権行使の相手方は,いったんは取得していた財産や利益を覆されてしまうことになります。それに対する手当がまったくないとすると,あまりに酷です。
そこで,破産法では,否認権行使によって財産や利益を覆された相手方の権利についても,一定の配慮を設けています。
詐害行為否認の場合
破産法 第168条
第1項 第百六十条第一項若しくは第三項又は第百六十一条第一項に規定する行為が否認されたときは,相手方は,次の各号に掲げる区分に応じ,それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。
① 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存する場合 当該反対給付の返還を請求する権利
② 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存しない場合 財団債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利
第2項 前項第二号の規定にかかわらず、同号に掲げる場合において,当該行為の当時,破産者が対価として取得した財産について隠匿等の処分をする意思を有し,かつ,相手方が破産者がその意思を有していたことを知っていたときは,相手方は,次の各号に掲げる区分に応じ,それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。
① 破産者の受けた反対給付によって生じた利益の全部が破産財団中に現存する場合 財団債権者としてその現存利益の返還を請求する権利
② 破産者の受けた反対給付によって生じた利益が破産財団中に現存しない場合 破産債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利
③ 破産者の受けた反対給付によって生じた利益の一部が破産財団中に現存する場合 財団債権者としてその現存利益の返還を請求する権利及び破産債権者として反対給付と現存利益との差額の償還を請求する権利
第3項 前項の規定の適用については、当該行為の相手方が第百六十一条第二項各号に掲げる者のいずれかであるときは、その相手方は、当該行為の当時、破産者が前項の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたものと推定する。
第4項 破産管財人は、第百六十条第一項若しくは第三項又は第百六十一条第一項に規定する行為を否認しようとするときは、前条第一項の規定により破産財団に復すべき財産の返還に代えて、相手方に対し、当該財産の価額から前三項の規定により財団債権となる額(第一項第一号に掲げる場合にあっては、破産者の受けた反対給付の価額)を控除した額の償還を請求することができる。
詐害行為に対して否認権が行使された場合,その相手方である受益者は,詐害行為によって取得した財産を失うことになります。
第1項について
たとえば,詐害行為が売買契約であり,それによって受益者が代金を支払って目的物を取得した場合,否認権行使により,受益者は,代金は支払ったのに目的物だけ取り戻されてしまうということになってしまいます。
そこで,このような場合,受益者は,破産管財人に対して,代金など反対給付が破産財団に残っているときは,その返還を求めることができ,反対給付が破産財団に残っていないときでも,反対給付の価額の償還を財団債権として求めることができるとされています(破産法168条1項)。
第2項について
ただし,受益者が,詐害行為の当時,破産者が対価として取得した財産について隠匿等の処分をする意思を有し,かつ,相手方が破産者がその意思を有していたことを知っていた場合は,返還等を求められる範囲が限定されます。
具体的には,反対給付によって生じた利益の全部が破産財団に残っている場合には,財団債権として現存利益の返還を求めることができ,一部しか残っていない場合には,財団債権として現存利益の返還を求めるとともに,破産債権として反対給付と現存利益の差額の返還を求めることができ,また,まったく残っていない場合には,破産債権として反対給付の価額の償還を請求することができるとされています(破産法168条2項)。
第3項について
なお,第2項では,受益者が,破産者が対価として取得した財産について隠匿等の処分をする意思を有し,かつ,相手方が破産者がその意思を有していたことを知っていた場合に返還の範囲が制限されることになっていますが,受益者が以下の者に当たる場合は,受益者の悪意が推定されるものとされています(破産法168条3項,161条2項各号)。
- 破産者が法人である場合のその理事・取締役・執行役・監事・監査役・清算人またはこれらに準ずる者
- 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者またはこれらに準ずる者
- 破産者である株式会社の総株主の議決権の過半数を子株式会社又は親法人及び子株式会社が有する場合における当該親法人またはこれらに準ずる者
第4項について
破産法160条1項・3項・161条1項の詐害行為否認の場合,破産管財人は相手方に対して,財産の返還ではなく,財団債権となる価額を控除した金額の償還を求めることができるとされています(破産法168条4項)。
否認権の効果の発生時期
否認権行使の効果は,破産管財人が,否認の訴えまたは否認請求において否認権行使を主張した時点で生じると解されています。
したがって,否認の訴えや否認請求が認容された場合には,否認権行使を主張した時点にさかのぼって否認権行使の効力が生じることになります。
また,破産管財人が訴えられている訴訟において,破産管財人が抗弁として否認権行使を主張した場合は,その抗弁を主張した時点で否認権行使の効果が生じると解されています。
この場合,相手方が敗訴した理由が破産管財人にによる否認権行使の抗弁によるものであったときは,その抗弁主張の時にさかのぼって否認権行使の効果が生じることになります。
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