破産管財人の善管注意義務とは?
破産管財人には,その職務を遂行するにあたって,善管注意義務(破産法85条)が課されています。最高裁判所は,破産管財人の善管注意義務について,「破産管財人は,職務を執行するに当たり,総債権者の公平な満足を実現するため,善良な管理者の注意をもって,破産財団をめぐる利害関係を調整しながら適切に配当の基礎となる破産財団を形成すべき義務を負う」としつつ,その注意義務の程度につき「破産管財人としての地位において一般的に要求される平均的な注意義務」であるとし,破産管財人の行為が善管注意義務違反といえるかどうかは,当該行為の具体的な態様だけでなく,事案の規模や特殊性,早期処理の要請などに照らして個別的に判断されるものと判示しています(最一小判平成18年12月21日)。
以下では,破産管財人が負う善管注意義務とはどのような義務なのかについて,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所がご説明いたします。
善管注意義務とは?
法律上,ある行為をする場合,当該行為者にはその行為をするに当たって一定の注意を支払わなければならない義務が課さられることがあります。これを「注意義務」と呼んでいます。
もっとも,注意義務といっても一様ではなく,その行為の内容や具体的な態様,当該行為者の属性によって,課される注意義務の程度は異なってきます。
その法的注意義務の1つに「善管注意義務」があります。民法その他法令において「善良なる管理者の注意義務」と定められているものが,この善管注意義務です。
善管注意義務とは,債務者の職業や社会的・経済的地位に応じて,取引上一般的に要求される程度の注意のことをいう,とされています。
善管注意義務は,民法その他の法令において定められている「自己の財産におけると同一の注意をなす義務」や「自己のためにすると同一の注意をなす義務」等よりも重い注意義務であると解されています。
つまり,他人の財産等を管理しているのであるから,自分の財産等を管理するよりも高度の注意を払わなければならない義務が課せられているということです。
破産管財人の善管注意義務
破産法 第85条
第1項 破産管財人は,善良な管理者の注意をもって,その職務を行わなければならない。
第2項 破産管財人が前項の注意を怠ったときは,その破産管財人は,利害関係人に対し,連帯して損害を賠償する義務を負う。
前記「善管注意義務」は,破産管財人にも課せられています(破産法85条1項)。
破産管財人は,裁判所によって選任され,破産者の財産を調査して破産財団に属する財産を適正に管理・換価処分し,各債権者の債権を調査した上で,その各債権者に対して公平・平等に弁済または配当を行うことが職務として求められています。
それだけではなく,各債権者に情報を適切に提供し,または裁判所に対して職務遂行に関する報告をし,さらには税務処理を行うなど,さまざまな職務を行う必要があります。
当然のことですが,破産財団に属する財産につき管理処分権を有するとはいえ,それはあくまで債権者に弁済または配当するための原資であり,破産管財人自身の財産になるわけではありません。
破産管財人は,各債権者の配当等の原資となる財産,すなわち,他人の財産に相当する財産を管理・処分する責務を負っているのです。
そのため,破産管財人がこれらの職務を行うに当たっては,自己のためにする程度の注意義務では足りず,善管注意義務を負っていると解されています。
最高裁判例においても,「破産管財人は,職務を執行するに当たり,総債権者の公平な満足を実現するため,善良な管理者の注意をもって,破産財団をめぐる利害関係を調整しながら適切に配当の基礎となる破産財団を形成すべき義務を負う」と判示したものがあります(最一小判平成18年12月21日)。
上記判例によると,破産管財人の善管注意義務は,「破産管財人としての地位において一般的に要求される平均的な注意義務」を指すものと解されています。
破産管財人が善管注意義務に違反したかどうかの判断基準
前記のとおり,破産管財人は職務遂行について善管注意義務を負っています。ただし,どのような場合に破産管財人の善管注意義務違反といえるのかは難しい問題です。
というのも,破産管財人には,破産手続の遂行に関してかなり広汎な裁量権が認められているからです。
そこで,前記最一小判平成18年12月21日は,破産管財人の行為が善管注意義務違反といえるかどうかは,当該行為の具体的な態様だけでなく,事案の規模や特殊性,早期処理の要請などに照らして個別的に判断されるとしています。
破産管財人が善管注意義務に違反した場合の責任
破産管財人が善管注意義務に違反した場合,その破産管財人は,利害関係人に対し,連帯して損害を賠償する義務を負うものとされています(破産法85条2項)。
破産管財人が損害賠償責任を負担するというのは,単に破産管財人として責任を負うだけではなく,破産管財人に選任された個人または法人も,個人または私的な法人として損害賠償責任を負担するということです。
例えば,A弁護士またはB弁護士法人が破産管財人に選任され,善管注意義務違反による損害賠償責任を負担することになった場合,その損害賠償金を破産財団から支払わなければならないだけではなく,A弁護士個人として,またはB弁護士法人としても,それらの固有財産から支払いをしなければならないのです。
この善管注意義務違反による破産財団に対する損害賠償請求権は財団債権となり(破産法148条1項4号),この損害賠償債務と破産管財人に対する固有の損害賠償債務とは不真正連帯債務になると解されています。
つまり,被害者は,破産財団または破産管財人である個人・法人に対しても損害賠償請求をすることができるということです。
なお,善管注意義務違反による損害賠償金を破産財団から支払った場合,破産財団は当該義務違反をした破産管財人に対して求償することができるとされています。
>> 破産管財人が職務上の義務に違反した場合どのような責任を負うか?
破産管財人の善管注意義務違反が問題となった裁判例
破産管財人の善管注意義務について判示した代表的な判例が,前記の最一小判平成18年12月21日です。
同判例は,破産管財人の注意義務について,「破産管財人は,職務を執行するに当たり,総債権者の公平な満足を実現するため,善良な管理者の注意をもって,破産財団をめぐる利害関係を調整しながら適切に配当の基礎となる破産財団を形成すべき義務を負う」としつつ,その善管注意義務の程度として「破産管財人としての地位において一般的に要求される平均的な注意義務」であると判示しています。
また,同判例は,破産管財人の行為が善管注意義務違反といえるかどうかは,当該行為の具体的な態様だけでなく,事案の規模や特殊性,早期処理の要請などに照らして個別的に判断されるとしています。
上記判例以降も,破産管財人の善管注意義務が問題とされた裁判例は少なからずありますが,実際に破産管財人の善管注意義務違反による損害賠償請求が認められた事案は多くありません。
破産管財人の善管注意義務違反が認められた裁判例としては,例えば,破産財団に属する債権について時効中断の措置をとらなかったために,当該債権について消滅時効が完成して回収不能にさせてしまった事案(東京高判昭和39年1月23日)などがあります。
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