代表者が死亡した場合に法人破産・会社破産できるか?
代表者が死亡した場合,法人・会社の自己破産申立てができません。そこで,新たな代表者を選定できないかどうかをまず考える必要があります。新たな代表者を選定できない場合には,亡くなった代表者以外の取締役や理事による準自己破産申立て,従業員等による債権者破産申立てなどを検討する必要があります。なお,代表者が株主等であった場合には,相続人が相続放棄をするか否かも関わってくることがあります。
以下では,代表者が死亡した場合に法人破産・会社破産できるのかについて,東京 多摩 立川の弁護士 LSC綜合法律事務所がご説明いたします。
代表者が死亡・行方不明の場合の法人破産・会社破産
法人破産・会社破産においては,破産者となるのは法人・会社ですが,その自己破産申立てを実際に行うのは,法的に法人・会社の代表権を有する代表取締役等の代表者です。
したがって,代表者が死亡している場合には,法人・会社の自己破産申立てをすることができません。
とはいえ,実際には,代表者が死亡しているからといって,すでに支払不能や債務超過になっている法人・会社を放置しておくことはできないのも事実です。
そこで,以下では,代表者の死亡により代表者を欠く状況になっている場合の法人破産・会社破産申立てについて説明します。
新たな代表者の選定が可能な場合
代表者が死亡した場合にまず考えるべきことは,新たに代表者を選任できないかどうかです。新たに代表者を選任できるのであれば,その新代表者が法人破産・会社破産申立てをすることができるからです。
代表者の他にも取締役・理事がいる場合
代表者の他にも取締役や理事がいる場合には,その残った役員だけで新たな代表者を選任できないかを検討します。
取締役会の無い会社(取締役会非設置会社)の場合
取締役会の無い会社(取締役会非設置会社)の場合,定款に特別な定めのない限り,各取締役が代表権を有します。
そのため,死亡した代表者が名目的な代表者にすぎなかった場合には,残った他の取締役が代表者として会社の自己破産申立てをすることができます。
死亡した代表者が正式に選定された代表者であった場合には,定款の定めに従って,残った取締役だけで新たな代表者を選定することができるかどうかを検討することになります。
取締役会設置会社の場合
取締役会設置会社の場合,3人以上の取締役が必要です。
死亡した代表者の取締役以外に3人以上の取締役がいれば,残った取締役だけで取締役会を行って新たな代表取締役を選定できます。
他方,死亡した代表者の取締役以外に3人以上の取締役がいない場合には,株主総会で新たに取締役を追加選任して3人以上とし,その上で取締役会を行って新たな代表取締役を選定します。
代表者が唯一の取締役・理事であった場合
死亡した代表者が唯一の役員で,他に取締役や理事がいない場合には,株主総会・理事会で新たに取締役や理事を選任する必要があります。
そして,その新たな役員が,代表者として法人・会社の自己破産申立てをすることになります。
新たな代表者の選定が困難な場合
上記のとおり,新たに代表者を選任・選定することができれば,代表者が死亡した場合でも,法人・会社の自己破産申立ては可能です。
しかし,実際には,上記のようにすんなりと新たに代表者を選任・選定できるとは限りません。そこで,新たな代表者の選定が困難な場合にどうすべきかを検討する必要があります。
代表者の他にも取締役・理事がいる場合(準自己破産の申立て)
法人・会社の破産手続開始の申立ては,その法人・会社だけではなく,法人・会社の取締役・理事個人でもすることができます。
法人・会社自身が申し立てる場合は「自己破産」と言いますが,これに対して,取締役や理事個人が申し立てる場合は「準自己破産」と呼ばれています。
準自己破産における取締役や理事は,代表者である必要はありません。したがって,代表者が死亡している場合でも,他の取締役や理事がいれば,準自己破産の申立てをして,法人・会社を破産させることができます。
なお,準自己破産の場合であっても,代表者がいないことには変わりありません。申立てはできても,代表者がいなければ手続を進めていくことはできません。
そのため,代表者が死亡している場合は,準自己破産申立てと同時に,代表者の代わりを務める「特別代理人」を選任してもらう申立てもしなければならないことがあります。
>> 準自己破産の申立てとは?
代表者が唯一の取締役・理事であった場合
死亡した代表者が唯一の取締役・理事であった場合,他に取締役・理事がいないときは,準自己破産の申立てをすることができません。別の方法を考える必要があります。
債権者破産申立て
この場合に考えられる方法としては,「債権者破産申立て」をする方法です。
法人破産・会社破産の申立ては,法人・会社自身(自己破産)や取締役・理事個人(準自己破産)だけでなく,法人・会社に対して債権を有する債権者もすることができます。これを債権者破産申立てと言います。
例えば,給料などの未払いがある場合にはその従業員に,法人・会社に貸付をしている役員の親族や取引先などがあればその親族や取引先等に,債権者破産申立てをしてもらうという方法です。
ただし,債権者破産申立ては,自己破産などよりもかなり費用が高額になってしまいます。しかも,その費用は申立人である債権者が負担しなければなりません。
>> 債権者破産申立てとは?
一時取締役等の選任申立て
もう1つ考えられる方法としては,裁判所に一時取締役等を選任してもらうよう申立てをする方法です。
この申立てによって一時取締役を選任してもらい,その一時取締役に新たな代表者を選任してもらうか,一時代表取締役を選任してもらい,その一時代表取締役に法人破産・会社破産の申立てをしてもらうということになります。
もっとも,一時取締役等の選任には時間もかかりますし,また,費用もかなり高額です。そのため,かなりハードルが高く,実際に破産申立てのために利用されることは稀でしょう。
代表者が100パーセント株主・出資者でもある場合の問題点
代表者が死亡したケースで,最も問題となりやすいのは,その代表者が,法人・会社の100パーセント(または大口)の株主・出資者でもあるというケースです。
中小零細企業の場合には,このケースが少なくないでしょう。
代表者が出資者の場合,代表者が亡くなると,法人・会社の社員権や株式は,相続人に相続されることになります(代表者の地位は相続されません。)。
したがって,取締役等を選任するために株主総会等を行う場合には,株式を相続した相続人が行うことになります。
相続放棄する予定がなければ,単純に株式を相続して,株主総会を行い,新たな取締役を選任するなどして,法人破産・会社破産を申し立てることができます。
ところが,代表者個人にも多額の負債があったため,相続人が相続放棄をする予定の場合,相続人が株主等として株主総会を行ってしまうと,相続を承認したものとみなされ,相続放棄ができなくなってしまいます。
そのため,相続放棄ができなくなるので株主総会で議決できず,新たな取締役等を選任することができないので,法人破産・会社破産を申し立てることができないという問題が生じるのです。
相続人全員が相続放棄をした場合の対処法
株主総会等を開いて新たな取締役等を選任しなければ法人破産・会社破産申立てができないものの,相続人が全員相続放棄をした場合には,前記の準自己破産や債権者破産申立てによって,法人破産・会社破産申立てができないかを検討する必要があります。
それも困難である場合には,家庭裁判所に相続財産管理人選任を申し立てて,選任された相続財産管理人に株主総会等を開き,新たな取締役等を選任してもらって,法人破産・会社破産申し立てることになります。
または,相続放棄をする前に,相続人に,亡くなった代表者の相続財産の破産を申し立ててもらい,相続財産破産の破産管財人に法人破産・会社破産申立てをしてもらうという方法もあるようです。
相続人に限定承認をしてもらう方法
前記のとおり,相続人が株主等として株主総会を行ってしまうと,相続を承認したものとみなされ,相続放棄ができなくなってしまいます。
もっとも,相続人全員が相続放棄ではなく限定承認をした場合には,その限定承認の手続内で株主総会等を開いたとしても,単純承認とはみなされません。
そこで,相続人全員に,家庭裁判所への限定承認申述をしてもらい,限定承認手続き内で株主総会等を開いて新たな取締役等を選任し,法人破産・会社破産申立てをするという方法も考えられるでしょう。
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